Act24 泣きわめく(Side.城之内)

 AVとかで、女が泣き叫びながらヤられる姿に興奮した。それで初めて、オレは自分の性癖を理解したんだ。今までどうしてセックスに興奮しないのかと謎に思ってたんだけど、なんだこういう事だったのか。でも、現実にそんなセックスをするのは難しい。相手を探すのも難しい。

 そんな事を思いながら日々悶々と過ごしていたら、おあつらえ向きの奴を見つけた。そいつは女じゃなくて男だったけど、特に気にはしなかった。
 
  要はヤれれば何でも良かったからだ。  
 余りに嫌だ嫌だと煩いから、思い切り壁に叩きつけて唇を塞いでやった。直ぐに歪む白い顔。その顔に、アソコが一段と疼く気がした。ヤバい、何これエロすぎる。弾みで殴りつけてしまった頬にはうっすらと赤みが差し、切れた口の端からは僅かに血が滲んでいる。舌を這わせると、形のいい眉がぎゅ、と強く寄せられた。喉奥から聞こえる、唸り声の様な未完成な喘ぎが、オレの耳を甘く擽る。

 肌寒い風が吹く学校の屋上で、オレは海馬をレイプしようとしていた。最初からその目的でここに引きずって来たんだけど、勿論海馬に取ってそれは予想外の出来事で、奴は持ち前の威勢の良さで殴る蹴るの抵抗をして来たけれど、腕力ではオレに敵わなかった。

 オレも軽い気持ちでこんな真似をしてるんじゃなかったから、ついつい力を込めてその動きを封じるべく暴力を振るっちまった。

 結果、大分ぐったりとした海馬を壁際に追い詰めて、オレはその身体を弄れる所まで到達した。いつもはきっちりと乱れ一つない奴の学ランは左右に開かれ、中のシャツはボタンが幾つか弾け飛んで大きく肌蹴られている。

 腰に巻かれたベルトは早々に遠くに投げ捨て、ズボンのホックだけは外れていた。海馬が呼吸をする度に眼下で揺れる色の綺麗な乳首がマジでエロい。

「いい加減諦めろよ。立ってるのもやっとだろお前」
「うるさい…っ、オレに触るな!」
「っ!鉄臭い唾ふっかけんじゃねぇよ!気色悪いだろ!」
「お互い様だ!馬鹿が!」
「大人しくしてりゃー優しくしてやっから暴れんな!」
「ふざけるな!誰が貴様のような犬に……!」
「黙れっつってんだろ!……痛っ、殴んな!」
「やめろと言っている!……っ!」
「やられたらやり返すの、趣味なんだ。でもオレ、お前の顔好きだからあんまり殴りたくない。だから大人しくしてくれよ」
「理不尽な事を言うな!クソ犬が!」
「天下の海馬社長さんがそんな言葉使っちゃ駄目だって。顔に似合わないぜ」
「余計な世話だ!」
「あんま大騒ぎすんなよ。誰か来たらどうすんの?オレはともかくお前だって恥ずかしいだろ、こんなの。いかにもヤられてます、みたいなさ」

 自分でもなんだかすげぇ嫌な奴だと思いつつ、オレはわざとそんな台詞を恭しく海馬の耳元に囁いてやった。途端に全身でオレを退けようとしていた身体がビクリと強張り、心底憎々し気な顔がオレを睨む。

 いいね、その顔。オレ、こういう凄みのある表情大好き。ますます興奮しそう。熱に侵され昂ぶった掠れ声で正直にそう言うと、海馬はギリ、と歯噛みして「変態が」と吐き捨てた。

 うん、確かにオレは変態かもしれない。お前みたいな奴をこんな場所で本気で犯してやりたいと思ってるし。それも、ただ普通に抱くんじゃなくって、ズタズタに引き裂いてやりたいって思ってる。それはお前に何か恨みがあるとか憎いからとか、そういう気持ちからじゃなくって(実際恨みは腐る程あったんだけど、今はそんなのどうでもいい)単純にそういうモノにオレが興奮するからだ。

 だから喧嘩は止められない。痛い思いをするのもさせるのも気持ちがいい。流石にその辺のゴロツキ共をどうこうしようとは思わないけど。

 ちなみに女とのセックスは余り好きじゃない。だって無理出来ないし、殴れないし。レイプ認識されたら捕まっちまうし。……だからかな、こいつに手を出そうと思ったの。 対等に喧嘩出来るし、力も強いから征服のし甲斐があるし、何よりも男の癖に妙に綺麗だ。素肌は殆ど見た事も無かったけど、スタイルは頗るいい。オレにそっちの趣味は全然なかったけど、こいつならヤれそうだ、と思ったんだ。

 そんな陶酔にも似た不思議な感情に浸ってると、一旦諦めたと思っていた海馬が再び暴れようともがいていた。なんだかんだ言いつつこいつも男だよな。力だって強いし持久力もある。さっきから何度か当たっちまった白い拳は結構痛くて、オレの頬も腫れてる気がする。

 でもそんな事どうでもいい。それ位が丁度いい。

 けれど、これ以上やられるのも鬱陶しいから、オレは両手で海馬の手を強く掴むと壁に押し付け、そのまま奴の頭上でクロスさせて左手で抑え込んだ。当然酷く暴れたけれどもうオレにダメージを与えるだけの力は残って無い。奴が唇を噛み締める音がする。

 悔しいだろうな、ご愁傷様。オレは全く他人事のようにそう呟くと、唇を目の前の顔からその下の柔らかな首筋へと静かに落とした。そして、きつく噛みついてやる。

「いっ!」
「お前って肌弱いなー。こんなちょっと噛んだだけで直ぐ血が出る。柔らかいし、女みてぇ。この分だとここも感じるかな?」
「……ふ、ざけるな!……あっ!」
「あはは、やっぱり感じてるじゃん。勃っちゃってるよ。わかる?」
「ひぁっ!……あ、やめろ…っ!」
「すっげ。なんか、お前でマジに勃つとか絶対無理だと思ってたけど、可愛いじゃん海馬。もっと見せて」

 首筋から鎖骨の窪み、そしてさっきから気になって仕方がなかった乳首を口に含んで吸い上げると、海馬は一際高い声を出してびくりと震えた。直ぐに全身に鳥肌が立って、唇で挟んだそこは堅くしこって立ち上がる。ちゅ、と音を立てて口を離すと、赤くて凄くヤラシイ色になっていた。

 すげ、やっぱオレの目に狂いはなかった。こいつはセックスの相手としては申し分ない。最高だ。

「……んっ…き、貴様、こ、んな真似をしてっ、ただで済むと思うなよ…!」

 余りにも興奮して、衝動のまま色んな所に唇で吸い付いて、舌で舐めまわしていたら、既に言葉なんか忘れちまったんじゃねぇかって程喘いでいた海馬が、不意にそんな台詞を口にした。

 荒い呼吸の中で、舌ったらずにそんな事言われてもやっぱり可愛いだけなんだけど、ここまでされてまだそんな事を言ってる気概に感心する。拘束してる両手にはまだ凄い力が入っていて、オレが少しでも気を抜けば直ぐに振りほどいてめちゃくちゃに殴りかかってきそうだった。

 その割に足にはもう殆ど力が入って無くて、がくがくと膝が震えてるんだから、可笑しくてしょうがない。なんだよお前、もしかしてオレを煽ってんの?そう言ってわざと勝ち誇ったように笑ってやると、海馬の顔がまた歪んだ。悔しそうに細められた青い目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 あーたまんねー。こんなまどろっこしい事やめて顔がぐちゃぐちゃになるまで泣かしてやりてー。

 そう思ったオレは、海馬の口だけの無駄な抵抗を封じるために、脇腹の辺りをなぞっていた手を一気にズボンの中に突っ込んだ。ひっ、と頭上で盛大に息を呑む声が聞こえて、オレはますます興奮する。怒るだけじゃなくって、怯えてくれた方がもっと面白い。最後に助けを求められたら最高だ。そうなるようにしてやりたい。

 もっとも、そんな状態になるまで、やめるつもりもねぇけどな。

「……くっ!……あっ!」
「なんだよ、いやいや言いながらちゃんと勃ってるじゃん。ガッチガチ」
「…ふっ…うっ……!さわ、るな!……気色悪い!」
「嘘付け。ぬるぬるじゃん。気持ちいいんだろ」
「い、いいわけないだろう!下衆が!死ねッ!」
「あっそ。じゃー痛いのがいいんだ?」
「うあッ?!……く、う、……つっ!」

 我慢汁ダラダラ垂らして何が気色悪いだよこの淫乱。緩く撫でられるより、きつく握られるのがいいってどういう事?こいつホントはマゾじゃねぇの。苛められて弄られて、めっちゃ興奮してんじゃん。普段はつんと澄ました顔して、人を散々罵倒してとんだSだと思ってたけど、本性はマジもんのMだったわけね。ほんと、オレの審美眼って凄すぎる。

 しかしまー海馬君のヤラシイ事。

 これ見ちゃったらその辺のAVなんてもうどうでもよくなるね。やっぱあれってどんなにリアルでも所詮演技じゃん?この本物の迫力には到底敵わない。凄すぎる。やべ、オレってば全く触られてもいないのにもうイキそうなんですけど、これってどういう事?……そろそろ我慢出来なくなってきた。ぼちぼち本懐達成と行きますか。

 奴に見えないようにぺろりと乾いた唇を舐め濡らしたオレは、海馬の前を弄っていた手を緩やかに解き、するりとそれを薄くて余りもみ心地の良くなさそうな後ろの狭間へと滑らせる。そして潔癖そうなこいつの事だから多分誰にも見せた事は勿論、触らせた事もないそこを濡れた指先で撫で上げた。

 途端に目の前の唇から引き攣った声が上がる。

「ひっ?!な、なに……っ、を!」
「何って。決まってんじゃん。ココ触られんの初めて?」
「ぃあっ!…当たり前だっ!……やめっ!」
「どうりできっつい訳だ。あ、残念だけどやめる気ないから。オレ、お前をヤりたくてここに連れ込んだんだし。今更だけど」
「ああぁっ!……ぐっ……うっ!」

 言いながら無理矢理は承知の上で、指を一本かなりきついソコに力任せに押し込んでしまう。途端に上がるマジもんの悲鳴にオレの興奮度はMAXになる。もっと我慢強いと思っていたこいつは、案外痛みには弱かった。

 実際、痛いだけなのかは分からなかったけど、額に脂汗を浮かべて辛そうな表情で滲んでいただけだった涙をぼろぼろと流している位だから、相当辛いんだろう。口から出てくるのはもう喘ぎ声っていうレベルじゃない。殆ど悲鳴だ。

 ああ、今のこの段階でこんなにもいい声で鳴くのなら、オレのを入れたら一体どうなっちまうんだろう。考えるだけでイキそうだ。こんなオレは確かに海馬の言う通り生粋の変態だ。けど、それを言うなら、そんな奴にこうも簡単に押し倒されるこいつだって相当のもんだと思う。

 いつの間にかオレは両手を海馬の腰に回していた。その為に拘束を解かれ自由になった筈の白い手は、一切殴りかかっては来なかった。それどころか、今からてめぇを犯そうとしてるオレの肩にしがみ付いてくる。指先が骨に食い込んで痛い位だ。

「……な、付きあっちゃわねぇ?オレ達?」

 挿入の瞬間、オレは奴の耳元にそう囁いて、それから返事を待たずに一気に熱の塊を押し込んだ。

 直ぐに痛いほどの締め付けと、耳を劈く様な鋭い悲鳴、そして頬にボタボタと熱い涙が落ちてくる。最高だ。最高すぎる。今が人生で一番幸せな瞬間かもしれない。そんな事を思いながら、オレは堅く硬直するその身体を抱き締めて、開きっぱなしの唇にキスをした。

 そして、上がる悲鳴と流れ落ちる涙ごと全部喉奥に飲み込んだ。   
「……っていう設定とシチュを想像してやってみたいんだけど、どうよ」
「なんだその十円動画の様な腐ったシナリオは。死ね」
「駄目かなー。あ、でもオレ、マジお前の泣き喚く姿大好きだぜ。めっちゃ興奮するし!よし、今日はレイププレイにしよう!」
「誰がするか!貴様が泣け!」
「ちょ、痛ッ!股間蹴るなっ!痛いって!!」
「……む。確かにいいかもしれんな」
「はい?!」
「貴様の泣き喚く姿がいい、と今思ったのだ」
「ちょ、何そのいやらしい笑い。まてまて海馬君ストップ!ごめん、オレが悪かった!普通のエッチにしましょう!」
「逆レイプ、というのもあるぞ凡骨」
「嬉しそうに言うな!イヤァー!助けてぇ!やめろこのドSッ!」

 以上、全てオレの妄想の話でした。

 え?この後どうなったかって?勿論いつもの通り、あんあん言ったのは海馬君ですよ。

 その前に泣かされたのはオレだったけどね。


-- End --