Act12 何回言えばわかるんだー!

「このフルーツの盛り合わせ超うめぇ!やっぱモノが違うよなー!モノが!」
「……城之内ぃ、お前朝ご飯食べて来たんだろ?何完食してんだよ……」
「あ?メシなんて一日何回食っても問題ないぜ!大体オレの家の朝飯なんて昨日の残りだもん。白飯でお茶漬け」
「……へー」
「んな事よりおい海馬。お前なんでちゃんと食わねぇんだよ。さっきから見てれば珈琲ばっかりがぶ飲みしやがって。胃に悪いぞそれ」
「うるさい」
「兄サマは毎朝そんなもんだぜぃ。それで目を覚ますようなもんだよ」
「はぁ?馬鹿かお前!そんなんだからんな細っこい身体になるんだろうがよ!」
「煩いと言っている!なんだ貴様は!」
「なんだと言われましてもねぇ。言わなきゃなんない事はちゃんと言うぜ。一応恋人様だし」
「あ、そうだっけ?そういう雰囲気じゃないから忘れてたぜぃ」
「お前なー。オレがなんでここにいるか考えてみろよ。つーかお前も一緒になってけしかけたんだろー」
「あはは。うそうそ分かってるよ。で、今日はどこに行くつもりなのさ?」

 言いながらいかにもガキっぽく硝子の皿に盛られたイチゴをフォークで思い切りよく突き刺したモクバは、大きな口を開けてそれを放り込みながら身を乗り出して向かいに座るこっちを見る。それと同じように目の前の最高に美味しそうな果物を次々と口に入れながら、オレはうーんと小さく眉を寄せた。その隣に座る海馬はどこ吹く風で持ち込んだ新聞を眺めている。

 ……こいつやる気あんのかね。思いっきり通常モード(多分。良く分からねーけど)ですけど。今からお出かけするんですよ、お出かけ。まぁいいや。こいつにフツーを求めても駄目って事が良く分かったし。無視しよ、無視。ってな訳でオレは海馬を完全に放置してモクバときっちり向き合った。なんだかなー。モクバの方がよっぽど大人だぜ……。

「それがさぁ、色々考えたんだけど、イマイチグッとくるプランが立てられなくってよ」
「なんだよ城之内、まさかノープランで行くつもり?」
「んーだってぇ、オレも男とデートした事ねぇもん。分かんねぇよ」
「そりゃーなかなかないよね……」
「女の子と行く所は大体決まってんだけどさ。大半ショッピングだろ?他には遊園地とか、映画館とか、水族館その他もろもろ。今は冬だからどれもちょっと難しいけど……まあどっちにしろ興味あるとは思えないし」
「うーん、そうだねぇ」
「ダチと遊びに行くっつっても大抵ゲーセンとゲーム屋だしさ。こいつとゲーセン行ってもなんか敗北感しか味わえなさそうで。つか、お前等どのゲームもトップスコア独占してるけど、どこのゲーセン行ってんの?」
「オレ達?KC内にアーケードゲーム専用の部屋があって、そこでプレイしてるんだぜぃ。自社機種もライバル機種も全部集めて研究してんだ」
「へー!」
「今度お前も遊ばせて貰えば?……って、そうじゃないだろ!と言うかさぁ、隣に兄サマいるんだから聞いてみればいいじゃん。なんでオレと話してんだよ」
「……うー」

 うん、そりゃ尤もな意見だけど、海馬全く他人事でこっちの話なんか聞いてねぇじゃん。つか、オレ達がなんについて話してるかもきっと把握してないぜ。新聞捲る以外微動だにしてないからな。この集中力はある意味すげぇよな。相手には超失礼だけどさ。

 まぁ、でも、そうだよな。オレがここでモクバとあーでもないこーでもないって話し合いをするよりも本人に直接聞いた方がいいに決まってる。すんごく気乗りしないけど一応聞いてみっかな。

 なーんて事をフォークを口にくわえたまま考えたオレは、それを手元に放りだすと、隣に座る海馬の方を向いて「というわけで、海馬くん?」と、ちょっとだけ遠慮がちに声をかけた。……はい、一回目は無視。二回目も無視。……だーもう!コイツはほんとにコミュ力ゼロだなおいぃ!!

「おい海馬っ!!」

 いい加減痺れを切らしたオレは、奴が新聞の最後のページを捲ろうとする手を捕まえて、思いっきり大声で名前を呼んだ。その余りの勢いに回りにいて朝食の世話をしてくれていたメイドさん達が一斉にビクッと肩を跳ねあげる。うわ、ごめんなさいッ。でも肝心の海馬くんはやっぱりどこ吹く風で飄々とした態度で新聞を最後まで読み切って、ゆっくりと顔をあげる。それにオレはすかさず新聞を取りあげると、重い溜息を吐いて自分を鼓舞した後、ぐいっと海馬に顔を寄せて改めて口を開いた。

「なぁお前、今日何処行きたい?」
「何がだ?」
「いや何がって、デートだよデート」
「……デート?」
「だーもう!デートっつーのは……好きな奴と行くお出かけの事!!!オレがここに来た目的!てか何回言えば分かるんだ!!」
「ああ、そうだったか」
「いや、そうだったじゃねぇって。あーもーいいや!んで、とにかくこれから外に行く訳だけど、リクエストとかありますかって聞いてんの!」
「リクエスト?」
「ここに行ってみたいとか、こういう事したいとかあるだろ?貴重な休日だぜ?」
「…………。いや?別にない」
「ないのかよ!つかお前休みの日って何やってんの?」
「家で仕事だな」
「それ休みじゃねぇし!!」
「城之内、確かに兄サマの休日なんてそんなもんだぜぃ。たまーにオレとゲームして遊んだりはしてくれるけど」
「そ、そうですか……」
「というか、そもそも貴様が今日の計画を立てる筈だったのだろう?ならばオレに聞くのはお門違いではないのか」
「何急に饒舌になってんだお前……偉そうに。でも確かにそうなんだよなー。そこは御説御尤もなんだけどさぁ、オレのパターンだとお前絶対つまんねー思いしそうだからさぁ」
「そうなったらそうなったで考えればいいだけの話だろう」

 そうではないのか?

 なんて不思議そうに言われてもな。こいつ意外に頭柔らかいな。なんかイメージと違うんだけど。んー本人がそれでいいっつーんだからここでオレが粘ってもしょうがないのか。まぁいいや、適当にその辺ぶらついてみるのもアリだよな。公園デートだってある訳だし。とりあえず最初から何もかも、じゃなくて雰囲気で行こう!よし、それに決めた!

「んー分かった!じゃーとりあえず出かけようぜ!」

 グダグダ考えてるのはオレの性に合わないからな!行動あるのみだぜ!そう心の中で自分に言い聞かせながら早速席を立ったオレに、海馬よりも周りの人間が一斉に行動を起こす。

「今日は少し寒くなりそうなので、コートをお召しになって行って下さいね」
「その格好じゃ少し寒いかしら?」
「そうね、雪が降ったら事ですし……瀬人様、こちらにいらして下さいませ」

 オレが海馬に声をかけるより先にメイド達が凄い勢いで海馬を部屋から連れ出して行く。なんだぁ?と思っていたら、いつの間にか食堂に来ていた既に顔見知りになった黒髪のお姉さんがにっこりと微笑みながらこう言った。

「お泊まりになる時はご連絡を頂けると助かりますわ、城之内様」

 ……それが言いたかっただけかよ!!てかいきなり泊り?!

「頑張れよ、城之内!!心の中で成功を祈ってるぜぃ!」

 モクバもか!!駄目だこの家なんとかしないと……。

 まあとりあえず、さっさと出かけましょう。さっさと!


-- To be continued... --