Act6 それはおかしいでしょ!

「おっ、遊戯おはよう。お前、案外朝早いんだな!」
「おはよう……って!何それ城之内くん!」
「?何それって?」
「君と海馬くんの間にいるモノの事だよ!」
「モノって。お前案外失礼な事言うなぁ。モクバじゃん」
「そんな事は分かってるよ!僕が言いたいのは、どうして『夫婦』のベッドの真ん中に、モクバくんが寝てるのって事!」
「?……何か問題あんのか?」
「問題っていうか……まぁここで騒ぐと二人が起きちゃうから、隣行こっか城之内くん」
「えー今日朝メシ海馬の当番なんだけど」
「朝ご飯の話じゃないから!いいから来る!」

 海馬くんが僕の家に花嫁?修行に来てから一週間後の夏休み真っ只中。僕は初めて二人の新居(…………)に遊びに行って、そのまま一晩泊まる事になった。丁度その時、モクバくんも泊まりに来ていて、4人で凄く賑やかな夜を過ごした。

 僕は主にモクバくんと話をしながら、それとなく新婚二人の様子を伺っていたんだけど……うん、確かにすごーく仲良しなのは分かるんだけど、やっぱりこうエッチな雰囲気というか、そういうのは余り感じられなかった。結構ベタベタはしてるから見てる分には目の毒……なんだろうけど、なんていうんだろ?ちっちゃい子同士がきゃーきゃー言いながら抱きついて騒ぎあってるみたいな?そんな感じ。

 モクバくんにもちょっとアレなんじゃないかなぁって最初は心配してたけど、なんかそんな心配が全然なくって、むしろ全然別の事で心配になってくるよ。ほんと大丈夫なのかなこの二人。

 二人が言うには家事は交代制で、メインは海馬くんの方らしい。うちの母さんが太鼓判を押すだけあって、僕がみた限りでは完璧だった。やっぱり海馬くんって自分で商品開発をするだけあって、頭もいいし手先も器用だから何でも出来るんだろうな。……ちょっと凝り過ぎるのは問題だと思うんだけど。変な所に真面目なんだよね。

 昨日も昨日でお昼ご飯のそうめんの茹で時間を物凄く正確に測ったりして、お鍋を取り上げたのは城之内くんなんだけど、それが遅いっ!ってかなり怒ってた。そうめんの硬さ位どうでもいいと思うんだけど、海馬くんにとっては重要な事みたい。それさえなければ特に問題はない……かなぁ?神経質だけど。城之内くんがストレスに感じなければいいんだけどね。

 そんな風に、案外上手くやっている二人だったけど、肝心な事はまだやっぱりまだで。お風呂とかどうするのかなーって思ってたら、本人達がいう通り、本当に一緒に入ってはいたけれど、僕に「一緒に入る?」とか聞いてきた時点でこれはもう駄目だと思った。

 ……一緒にって!それおかしいでしょ?確かにここのお風呂異様に広いし、男同士だから一緒に入っても変じゃないけどさ、普通の男同士と城之内くん達のそれとはイコールじゃないから!そう思って思いっきり拒否したんだけど。

 そういえば海馬くん、僕の家にいた時もごく普通に「一緒に入るか?」なんて聞いてきたし(じーちゃんが名乗りをあげたけど僕が速攻却下した)、海馬邸ではモクバくんと普通に一緒に入ってたっていうし……海馬くんにとってはお風呂は本当にただのお風呂で、変な意味は何にも無いんだろうな。城之内くんもそういう感覚みたいだし。

 そのお風呂の一件ですっかり脱力した僕だったけど、それは寝る時から朝起きた今、ますます酷くなっていて。……寝る時、布団とかどうするのかな、と思ったら僕は最初から「お客さん」扱いだったから、客間にちゃんと用意してくれて、なかなか快適な環境で寝る事が出来たんだけど、じゃあモクバくんは一体何処に寝たんだろう?ってちょっと疑問に思ってたら……城之内くんと海馬くんの間で、三人川の字になって寝てるんだもん!!これはないでしょ、と思ったよ!

 さすがの僕も、もう堪忍袋の緒がプツリと切れちゃって、城之内くんを叩き起こして、リビングに引きずって来たんだけど。寝室を出る前にちらっと見たまだ熟睡中の二人はぴったりと寄り添って眠ってて、兄弟だから寝顔がそっくりなのは勿論なんだけど、そうしてると体格差の関係から親子みたいだ。これに城之内くんが加わったら完全に親子だよ……何このほのぼの家族。ありえない。そんな事だからいつまで経ってもエッチ出来ないんだよ!分かる?!

「なんだよもーそんなに興奮する事ねぇだろ」
「興奮するに決まってるでしょ!一体どうなってるのさ!」
「どうって?」
「海馬くん、うちの母さんに色んな事教えて貰って帰っていったはずだけど?」
「ああうん。なんか面白い事一杯言ってたみてぇだけど」
「パジャマ半分とか、実行してみた?」
「したした。でも寒くってさぁ」
「クーラーの温度低すぎなんだよ!……ってそうじゃなくって!興奮しなかったの?!」
「興奮?」
「すんごいエッチだったでしょ?海馬くんの生足だよ生足っ!」
「エッチっていうか……別に普通。見慣れてるし」
「……お風呂でね」
「そう、風呂で。分かってんじゃん」
「……駄目だこりゃ。城之内くん、海馬くんと裸で寝ても興奮しないでしょ」
「そんな事もねぇけど」

 ……やっぱり、この二人「結婚」はやめた方がいいんじゃないかなぁって思えてきた。だってする事もしないんじゃ、意味ないじゃん。友達でいいじゃんそんなの。そう僕が大きく溜息を吐きつつ口にしたら、城之内くんはそれでもやっぱり海馬くんが好きで、結婚したいんだって。もう良くわかんないよ。

「……まぁ、別にいいけどね。それはそれで」
「その内なんとかなるっしょ。今のとこエロ本とDVDで満足だし」
「だからそういう情熱を海馬くんに向けろって言ってるの!」
「最近は一緒に見るんだぜ?お前、あいつに色々教えたろ?」
「ちょ、君達が仲良く鑑賞会出来るように僕のDVD見せたわけじゃないんだけど!!実践してよ実践!!アレくらいなら出来るでしょ?!」
「そんな事言ってーお前もまだなんじゃなかった?」
「そっ、そうだけど!僕の事はどうでもいいじゃない!」
「もー煩いよ二人とも、朝から喧嘩しないで欲しいぜぃ」
「ご、ごめんね。煩くして。海馬くんは?」

 テーブルを挟んで向かいあって、僕と城之内くんが真剣にそう言い合っていたその時だった。結構大きな声で騒いでいた所為か、起きてしまったモクバくんがリビングにやってきて、目を擦りながら文句を言う。そんな彼に僕はちょっとだけ肩を竦めて謝った。モクバくんはそんな僕の言葉を「別に」なんて受け流して、直ぐに城之内くんへと向き直る。

「兄サマは一緒に起きて……あ、城之内の事待ってたぜぃ」
「お?着替えか?今日の予定はなんだっけ?」
「午前中はフリー。午後から会社。面倒だからスーツ着せちゃえば?」
「了解。じゃ、ちょっと行って来る」

 何時の間にか二人に置いてけぼりにされた僕は、今目の前で交わされた話の内容をもう一度良く考えて、何か変だと思い始める。けれど、僕の横に座って欠伸をしているモクバくんはいつも通りで特に変わった所はない。……でも。

「ねぇ、モクバくん。今、城之内くんなんて言ったっけ?」
「うん?着替えだろ?兄サマの」
「?海馬くんの……着替え?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「着替えって何さ」
「着替えは着替えだろ。兄サマの着替えの手伝いしてるんだよ」
「えっ?!手伝い?!何それっ!」
「兄サマ、ああ見えて家ではずーっとメイドに着替えさせて貰ってたからさー着替えだけは自分で出来ないんだよなー。だから、城之内が……夫の仕事だ!とか言って。嬉しそうに」
「……はぁ。で、何もないわけ」
「何もないね」
「モクバくん、意味分かってる?」
「分かってるぜぃ。オレもいい加減キスくらいはどうなのかなって思うけど。昨日もオレ遠慮しようと思ったんだけど、別にいいって言うから一緒に寝たんだ」
「……君はおかしいとは思わないの?」
「思うけど、そもそも男二人で結婚の時点で十分おかしいからなんかもうどうでもいいかなって。オレは兄サマが幸せならなんでもいいぜぃ!」
「ああ、そう……」

 物凄く無邪気なキラキラ笑顔付きでそう言われてしまうと、僕もつい騙されてそんなもんなのかなって思っちゃう。なんかどうでも良くなって来ちゃった。
 

「お前いい加減ネクタイ位自分で結ぼうとか思わねぇの?はい、ちょっと顔上げて」
「苦しいぞ凡骨!」
「ありゃ、ちょっときつかったかな。じゃーこん位」
 

 少しだけ開いた扉の隙間から見える密着状態の二人とは裏腹に、とてものんびりとした平和そのものの会話に僕はすっかり疲れてしまって、溜息すらも吐けなかった。そんな僕に、モクバくんは在り難くも「元気ないなー遊戯。肩でも揉んで上げようか?」って言ってくれた。

 ああ、マッサージって手もあるよね。

 その言葉に僕が即座に浮かんだ台詞は、そんな下らないモノだった。


-- 続きは同人誌にて --