不良城之内×初期海馬

「てめぇはつくづく目に悪ぃよな」
「……どういう意味?」
「そのまんまだけど。日中には傍に居て欲しくないね」
「ふん。どうせ夜にならないと会いに来ない癖に」
「まぁ。こちとら生活があるもんで」
「暇があれば泥塗れになってその辺のおともだちと遊んでいる癖に。生活が苦しいなら稼げない普通のアルバイトなんかやめてボクの所においでよ。高額の仕事を紹介してあげるよ」
「あー結構です。まだムショにはブチこまれたくないんで」
「そんな仕事は君にはやらせないよ」
「ケッ、『その道のプロがいるから』だろ」
「分かってるじゃないか」
「分かりたくもねぇけどよ」

 あーウゼェ。ウゼェしキモイ。お前、一体何なんだよ。

 そう言って、この部屋の主である瀬人に悪態を吐きつつも出て行く素振りはみせず、城之内は部屋の隅にあるソファーに思い切り倒れ込んだ。元々色褪せて少しほつれた制服は、血と泥に塗れ、所々破れている。薄い水色のカバーが一瞬にして台無しになったが、それを気にも留めず、瀬人は「今日は結構骨のある相手と遊んで来たんだね」と紅い唇を歪めて嬉しそうに揶揄をした。

 キラキラと視界全てが光に閉ざされる様な勢いで輝く豪奢なシャンデリア。その下に立つ頭髪の緑以外全身白で統一されたその姿はまるでそれ自体が光を放っている様でやけに眩しく見える。その白が目に痛い。己の身体のどこにも残されていない穢れの無いその色に、城之内は心の中で唾棄をした。全く忌々しい。けれど、その忌々しいものに好んで近づいているのは城之内自身だ。

 何故、こんな得体の知れないものに惹かれてしまったのだろう。ゆっくりと歩みを進め、ふわりとした空気の流れと共に降りて来た顔を眺めながら、城之内はこの後に及んで今更な疑問を胸に抱く。そんな彼の気持ちを読んでいるのか、はたまた無様なこの姿を嘲笑っているのか、瀬人は少し目を細め今度ははっきりした笑みを見せる。柔らかい微笑み。けれどそれは、見る者に空恐ろしさしか与えない。

「真っ黒だね」
「てめぇの腹ん中ほどじゃねぇよ」
「酷いなぁ。ボクに当たる事ないじゃないか」
「近よんな。目が痛ぇ」
「眩しい?」
「あぁ?」
「せめて外から見える所位は白くありたいと思ってね」

 他は、君の言う通り、決して綺麗な色にはなり得ないから。

 そう言って、光を纏う様なその白は静かに城之内の元へと降りて来る。汚れている事など気にせずに仰向けに倒れたその身体を膝で跨いで上体を倒す。するりと伸びた人形めいた細い指先は頬を流れる血を拭い、それを追う様に唇が寄せられた。見かけに反してそこは酷く温かい。それがより一層不気味に思えた。

「ボクの姿が白過ぎて目に痛いのならその泥だらけの手で汚せばいい。そうすれば、少しは見られるようになるだろう?」
「誰もてめぇの事なんざ見たくねぇよ」
「その割に、来てくれるんだね」
「他に行く所がねぇからな」
「可哀想だね」
「てめぇがな」
「ボクはいいんだ。悪魔に魂を売ったから」

 だからもう何をしても、何をされた所でどうとも思わない。
 ただ、笑いがこみあげてくるだけだ。おかしくて。

「大丈夫。君が汚れているのは身体だけだよ」
「慰めにも何にもなってねぇじゃねぇか」
「……キスしてよ。ボクの見えない所は、君の言う通り、酷く汚れているけどね」
「そうだな。血の味しかしねぇもんな。……でもよ、オレは結構好きだぜ、この鉄錆の味」
「変態」
「お互い様じゃねぇか。仲良くしようぜ」

 黒と白の指先が絡み合い、血の味のキスが交わされる。何時もの光景、非生産的な関係。それでも、その二つの指先は離れる事など有り得ない。余りにきつく握り合い、爪を立てて血が滲んでも、それさえも快感だと豪語して彼等は長くて短い夜を過ごすのだ。

「……また、朝が来るね。繰り返しだ」
「明日は違う色の服を着てみればいいんじゃねぇの。気分、変わるぜ?」
「……君は本当に面白いね」
「そうしたら、オレもちゃんとてめぇを見て、気分が良けりゃー抱き締めてやるよ」

 風呂に入って綺麗になった手と身体で。その、全てを。
 

 そんな城之内の言葉を、瀬人はやはり口元を歪めて嘲笑った。
 けれど、嫌がる素振りは微塵も見せなかった。

02.Black&White