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 海馬コーポレーションで社長をやっている海馬くんは嫌い。
 そこにボクの居場所は無く、彼と同等の立場でいる事が出来ないから。それどころか安易に近付く事も出来無いし、電話や受付などを経由し何度も段階を踏まないと彼の前に立つ事すら出来ないんだ。だからボクは、海馬コーポレーションで社長をやっている海馬くんの事が嫌いだ。

 学校で学生をしている海馬くんは好き。
 そこはボクや海馬くんが普通の学生でいられる唯一の場所だから。同じ場所で同じ空気を吸って同じ事を勉強する。ボクは何の苦労もなく彼の前に立ち、同じ立場で喋り、時には疲れ切った彼を支える事が出来る。だからボクは、学校で学生をしている海馬くんの事が好きだ。

 誰かと一緒にいる海馬くんは嫌い。
 それが最愛の弟のモクバ君でも、信頼している部下の磯野さんでも、喧嘩ばっかりしている城之内くんでも、とにかく誰かと一緒にいると海馬くんはそっちの方に意識が持っていかれてしまう。下らないヤキモチだと自覚しているけど、彼にはボクだけ見て欲しいと思っているからどうしても我慢出来ないんだ。だからボクは、誰かと一緒にいる海馬くんが嫌いだ。

 ボクと二人きりの海馬くんは好き。
 いつも何かを睨み付けるような鋭い視線が和らいで、あの青い澄んだ瞳でボクの事を見てくれるから。海馬くんの優しい視線は彼が何も言わなくても、ボクの事が好きだと饒舌に語っている。時には瞳を潤ませながら可愛い表情でボクを見詰めてくれるし、あの小さな口からちゃんと「好き」という言葉を発してくれる。だからボクは、ボクと二人きりの海馬くんが好きだ。

 並んで歩いている時の海馬くんは嫌い。
 ボクは153p。海馬くんは186p。その差33p…。背の高い海馬くんはスラリと背を伸ばして威風堂々と歩いて行く。対してボクは精一杯背伸びをしても、彼の肩にすら届かない。男らしい海馬くん。男に見られないボク。彼を愛する立場の筈なのに、その自信が揺らいでしまう。だからボクは、並んで歩いている時の海馬くんが嫌いだ。

 一緒に座っている時の海馬くんは好き。
 座高に関しても確実に海馬くんの方が高いんだけど、それでも並んで歩いている時よりはマシだ。そっと肩を引き寄せると、ボクに合わせて身体を屈めて寄り掛かってくれる。普通の人より少し低い体温を温めるようにその背を抱き締めると、気持ち良さそうにボクの肩口でフゥ…と息を吐き出すんだ。だからボクは、一緒に座っている時の海馬くんが好きだ。

 何かに悲しんでいる海馬くんは嫌い。
 泣きもせず、苦しみを吐露する事もせず、ただ黙って我慢しているから。そういう時くらいボクを頼って欲しいって思ってるのに、彼は絶対そういう事をしようとはしない。勿論ボクに対してだけじゃなく、モクバ君や磯野さんに対してもそうなんだけど。でも必死で我慢している海馬くんを見てると、こっちまで悲しくなってしまうんだ。だからボクは、何かに悲しんでいる海馬くんが嫌いだ。

 幸せを感じている海馬くんは好き。
 頬をほんのり紅く染め、いつもは渋い表情ばかりしているあの綺麗な顔が明るく見えるから。いつもはキツク吊り上がった目も細く和らいで、硬く引き結ばれている口元も口角が上がっている。「遊戯…」とボクの名前を呼びながら不器用に甘えてくる彼が可愛くて愛しくて…。だからボクは、幸せを感じている海馬くんが好きだ。

 ソファーで疲れて眠っている海馬くんは嫌い。
 元々細い身体なのに、更に窶れて身体はガリガリだ。頬も痩けて顎の線がシャープになり、目の下にも濃い隈が出来ている。ソファーなんかでゆっくり休める筈も無いのに、まるで死んだようにピクリとも動かずに眠っているんだ。せめてベッドで眠って貰おうと思って痩せた身体を揺すっても、彼はウンともスンとも言わない。まるで本当に死んでしまっているように…。それがとても心配で…そしてボク自身も苦しくて。だからボクは、ソファーで疲れて眠っている海馬くんが嫌いだ。

 ベッドでボクと一緒に眠っている海馬くんは好き。
 いつもは大きく見える海馬くんも、一緒のベッドにいる時だけはボクより可愛く見えるから不思議だ。眠る前に彼の身体を撫で擦ると、あっという間に火が付いて扇情的な喘ぎ声をあげてくれる。自分の指を囓りながら必死に声を押し殺そうとする様が愛しくて、でも感じている海馬くんの声が聞きたいからボクはその手を取り去ってしまう。

「あっ…! 遊…戯…っ!」

 ピクピクと身体を痙攣させながら、熱い吐息と共にボクの名を呼ぶ海馬くん。それだけで身体の中心が熱くなって、ボク自身も我慢出来なくなってくる。滑らかな白い肌に掌を這わせて、真っ赤になった乳首を吸って、硬く勃ち上がったペニスを扱いて。

「あ…あっ…んっ! うっ…ふぅ…っ。遊戯…っ!」

 断続的に上がる声が愛しくて堪らない。海馬くんがボクの拙い愛撫で感じてくれているのが、嬉しくて嬉しくて…。

「海馬くん…っ」
「ふぁっ…! 遊戯ぃ…っ」
「好きだよ…。本当に大好きだよ、海馬くん」
「うっ…! あっ! あぁっ…!」
「あっ…。海…馬…君…っ!!」
「ひぁっ!! ゆ…ぎぃ…っ!! あぁっ―――――っ!!」

 海馬くんの長い腕が伸びてきて、ボクの肩を強く掴む。大きく背を反らせてビクビクと痙攣しながら達する様は、もう…何とも言えない程に美しかった。
 繋がった身体を一旦離して、汗に塗れた栗色の髪を掻き上げて額にキスをすれば、海馬くんはそろりと瞳を開いてボクを見てくれた。涙で潤んだ青い瞳。紅く充血した目元が凄く色っぽい。「大丈夫?」と尋ねればコクリと頷き、そしてまた瞼を閉じてしまった。

「海馬くん…?」

 呼びかけても、彼はもう返事をしない。体温を求めるようにボクの身体に引っ付き、スラリとした身体を若干丸めて眠りの世界へと落ちている。まるで子供の様な安らかな寝顔にボクはクスリと笑って、しっとりとした髪を撫でながらまだ赤味が差している頬に唇を押し付けた。
 
 

 海馬瀬人を構成する全てが好き。
 本当は、会社で社長をしている海馬くんも、誰かと一緒にいる海馬くんも、並んで歩いている海馬くんも、何かに悲しんでいる海馬くんも、疲れている海馬くんも、全部好き。彼の爪先から髪の毛の一本まで、海馬くんの全てをボクはこんなにも愛している。
 だから好き。大好き。愛してる。

 ただほんの少しだけ、ヤキモチを妬いたり疲れている君を心配する事だけは許して欲しい。
 それがボクの…君に対する愛なんだから。ね、海馬くん。
 

-- END --