Act0 Fight!

「今回赤点取ったらマジやべぇんだって!一教科も落とせねぇんだ!」
「だからなんだ」
「なんだじゃねぇよ、助けてくれ!お前、もう終わったろ?!この間生徒指導室で試験受けただろ?!」
「ああ、受けたな」
「問題教えてくれ!頼むっ!この通り!」
「嫌だ」
「何でだよ?!」
「オレは不正は好まん。自力でなんとかするんだな。大体、オレの試験問題が貴様等の試験問題と同じとは限らないだろう。普通は全く違うものにすると思うが」
「そうかもしんねぇけど……それでも参考にはなるだろ?!」
「馬鹿には何を見せても参考にはならない」
「ひどっ……!お前言っていい事と悪い事があんだろーが!!」
「オレ的には今のは言っていい事だ」
「あ、そう。……じゃなくて!助けろよ!」
「貴様を助ける義理なぞない」
「お前オレが卒業できなかったらどうすんだよ!二年を二回もやりたくねーよ!」
「……何年でも高校生をやっていればいいのではないか?」
「そんな金どこにあんだ!」
「バイトしろ」
「ああああそんな事言わないで助けて下さい!」

 空を真紅に染めあげる夕日が目に眩しい、夕暮れの社長室。その強烈ささえ覚える赤色を背に、長い足を持て余し気味に組んでオレを見下ろしているその男は、オレの必死の叫び声に心底呆れたと言わんばかりに眉間に深い縦皺を刻んで大きな溜息を一つ吐いた。

 余りにも厳しいその表情に、お前そんな顔ばっかりしてるとその内それが地顔になるぜ、なんて軽口を叩いたら、「誰の所為だ!」と怒鳴ってきやがった。

 はい、ごめんなさい。オレの所為です。
 

 でも……でもさ。マジヤバイんだって。留年の危機なんだって!!
 

 今日の帰り際、担任に呼び出されたオレは、職員室の片隅で奴から驚きの事実を聞かされた。……まあ、驚きって言ってもなんとなくそうじゃねぇかなぁとは思ってたから、吃驚仰天ってまでは行かなかったけどよ。でも、こうはっきりと「次のテストで一つでも赤取ったら留年な」と笑顔で言われたら逆に焦るっつーの!……実際ヤバイんだけどよ。

 警告をされたところで特に何が変わるわけでもなく、オレが出来る事は必死になって赤点を阻止する事なんだけど……急に頭が良くなるわけでもなし、対策は無いに等しい。

 途方に暮れたオレはとりあえず困った時の海馬頼みって事で、速攻でKCへと押しかけた。メールも何もしないで突然押しかけたもんだから海馬の機嫌の悪さはMAXで、すげぇ慇懃な態度で出迎えられたオレは、奴の言う事何もかもをスルーして事情を説明した上で頭を下げてみた。

 結果、返ってきた言葉が最初のやりとりに繋がっている。

 なんだよ、お前超他人事かよ!まぁ、実際他人事なんだけど。それにしたってもっとこう言い方ってもんがあんだろうが。馬鹿だの阿呆だの凡骨だの言いたい放題言いやがって。仮にもオレはてめぇの彼氏だぞ?!分かってんのかこの野郎!

「普通さ、恋人のピンチには手を差し伸べるだろ?!それが優しさってもんだろ?!なぁ!」
「甘やかしは優しさとは言わない」
「お前だって付き合ってる相手が留年とか嫌だろ?!カッコ悪いだろうが!」
「別に。馬鹿は承知の上だ。今更なんとも思わん。そこを問題にするのなら最初から貴様となぞ付き合ってないわ」
「!!………………」
 

 いっ……言い返せねぇ。尤もだ。
 

 だよなー馬鹿が嫌ならまず最初っからオレとなんか付き合わないよな。こいつやっぱり頭いいわ……っていやいやそんな事を今ここで感心してどうすんだ!オレは何としても海馬の協力を仰がなきゃなんないんだからな!

 そう最初から堅く心に決めていたオレは、とにかく海馬相手に粘りに粘りまくった。途中電話が入って30分以上待たされたり、来客とかで奥の部屋に蹴り込まれて監禁されてもめげなかった。こうなりゃ持久戦だ。絶対負けねぇ!!
 

 ……そんなこんなで6時間。何時の間にか時刻は9時を回っていた。
 

 海馬は最後の書類に何か書き込んで、サインをして処理済の箱に放り込む。そして未だソファーに陣取ってじっとその姿を眺めていたオレに視線を向けると、凄い疲れた風に、けれどかなりの怒鳴り声で一言、こう言った。
 

「……ああもうわかった!!面倒を見ればいいのだろう!見ればっ!」
 

 そうそう。最初からそーやって素直に協力するって言えばいいんだよ。馬鹿だなー。そう言いながらがっくりと肩を落とし、悔しそうにオレを睨む海馬の横に立って、ぽんぽんと肩を叩いてやった。そしたらコイツ、オレにデコピンしやがんの!いってぇ〜!可愛くねぇ〜!!

「今日はオレ、これからバイトあるんで帰ります」
「早速逃げるのか貴様!言い出したのならそれなりの覚悟はあるんだろうな?!」
「分かってるって。だから、今日だけバイト行って、後は時間調整すっから。そん時頼む」
「オレは貴様の都合のいいようには時間など空けないぞ」
「いい。勝手に来るから」
「来るな!!」
「いっその事テストまでお前んちに泊まり込んでいい?あ、いいじゃんその考え、そうしよう!」
「勝手に決めるな!!」
「じゃ、そういう事で。なんか逆に楽しくなってきたかもー」
「ふざけるな凡骨!!誰がそんな事をゆる……おいっ、待てっ!聞いているのか!!」

 聞いてません。聞くわけないじゃん。

 そう心の中で言いながら、オレは部屋を退出がてら、海馬に思いっきり舌を出しつつ、未だ何事かを叫んでいる声を無視して扉を閉めた。予想外に面白い事になってきたじゃん。海馬くんとマンツーマンで夜のお勉強!……ってこう表現するとなんかアレだな。違うよな。

 とにかく、オレはなんとしてもこのテストで赤点を回避しなきゃいけねぇんだ。その為にはなんだってやってやるぜ!!

 誰もいないKCの廊下の真ん中で、オレはそんな事を思いながら両手でガッツポーズを決めて気合を入れた。
 

 ── オレの戦いは、これからだ。