Immoral Kiss Act1(Side.城之内)

 会う度にお互い違う匂いがして、顔を合わせた途端に言う事は「今度はこんな奴と寝た」。
 そんな言葉から始まる夜ってなんか可笑しい。
 

 それでも、オレ達は他人から関係を聞かれたら「恋人だ」って答えるんです。
 

 町を歩けば手を繋ぐし、記念日にはおそろいの指輪とか買っちゃったりするし、暇があればキスとかするし、どこでだってセックスもする。な?普通の何処にでもいるカップルだろ?

 ただ、一つだけ違うのは、互いがナンバーワンなだけであって、オンリーワンじゃないって事。なんかの歌でそんなのがあったけれど、それと全く逆の論理を行くオレ達。でもそれで上手くいってるんだから他人にどうこう言われる筋合いなんかない。

 世間様からズレてるって事は分かってる。けど、生まれも育ちも現在も世間様から大分ズレたところにいるんだから、今更何がズレてたって困りゃしない。周囲に迷惑かけなければいいんじゃね?

 あ、でも、ちょっとは迷惑かけてるか。心配させてるってとこがさ。
「オレこの匂い知ってる。サムライとか言う奴。そんなに高くないもんだと思ったけど、お前その程度の男とも寝るの?」
「貴様は結構鼻がきくな。オレにはさっぱりわからん」
「ブランドものしか知らないからだろ。しっかしこんなにしっかりマーキングされちゃって。めっちゃ自己主張激しい奴じゃん。どうすんだよ本気だったら」
「向こうが本気だろうが何だろうが興味等ない。そんなものを一々相手にしていたらやりきれんわ」
「さすがは枕営業専門の海馬社長。言う事が違うね。で、良かった?そのサムライの男」
「ふん、お話にならなかったな。お陰で演技力だけが身についた」
「うわぁ、やーらしー。お前社長やめて役者になった方がいいんじゃないの。騙される奴も可哀想に」
「人の事ばかりで貴様はどうなのだ」
「オレ?オレは相変わらず年上のねーちゃんにモテるよ。お陰でオレに似合わない高価な持ち物が増える増える。ぜーんぶ生活費にさせて頂きました」
「先月見た女はなかなかの資産家だったな」
「あ、やっぱ分かる?銀行頭取のお嬢さんだってさ。この間車買ってやるって言われて別れた。やっぱ分相応ってもんがあるじゃん」
「何が分相応だか。それで今度はディオール好きのOLか」
「アレは違うの、一夜の過ち」
「いつものか」
「そ、いつもの」

 天蓋付きのベッドの上で部屋に入るなり、とりあえず一回ヤッたオレ達は、そのまま二回戦に突入する前に一息ついて、何となくお互いの近況を話していた。近況っつっても話し合うのはこんな話ばっかりで、素っ裸の海馬を膝に乗っけている、というこの状態でさえなければただのダチ同士の世間話だ。男同士の会話ってこんなんばっかりだろ。大抵は彼女自慢、遊び自慢ってね。

 だったら、海馬ともフツーに「男友達」でいられればいいのに、何故かそうは行かなくて。顔を見ればキスしたくなるし、触れば抱きたくなる。気がつくと、顔を付き合わせるより先に身体が繋がっちゃってたりして、溜息が出る。こんなんじゃなかったのに、と思いつつ毎回同じ事を繰り返す。

「なぁ、お前って何なの?」
「何が」
「いや何がって。暇さえあればこんな事しちゃってさ。そんなに好きなの?」
「人に言えた義理か」
「オレは女相手だもん。別にフツー」
「オレも別におかしな事だとは思っていない」
「いや、変だろ。男好きとか変だって」
「ならば貴様は何故その男好きに手を出す。貴様も似たようなものだろうが」
「ちげーよ。だってオレ男ってお前しか知らねーもん。他はお断り。……あーでもそう言われてみるとなんでだろーな。やっぱお前が好きだからかな?」
「何を頭の悪い事を言っている」
「……お前、人の好意をなんつー言葉で叩き落すんだよ。お前だってオレが好きだろ?」
「さぁ、どうだろうな。寝る事に好き嫌いなど関係ないしな」
「……ご尤もです」

 確かに、セックスなんてそこに身体がありゃー顔がどうであれ出来る訳で。欲望が先に立っちまえば好きとか嫌いとか関係ない。考えなくても「好き」で「やった」相手なんてほんと片手にも満たないかも。うーん。だとするとそこが基準では無い訳だ。オレもコイツも。

 オレは根っからの女好きで、全てにおいて適当で、浮気性で飽きっぽい最低の部類に入る駄目男で。そんなオレの上に乗るコイツは、根っからの男好きでセックス大好きな淫乱男で、女で言えば超尻軽。普通そんな噂が立ったら体面とか考えて少しなんとかするものなのに、コイツの場合はそれを利用してるんだから性質が悪い。まあ、シャチョーなんてものはどいつもこいつも性質が悪いんだろうけどよ。オレの勝手な偏見だけど。

 でもこうやって時間が出来ると顔を合わせてやる事やって、そのまま3日間位一緒にいたりして、ましてやこんなに互いにフラフラしてんのに全く持って切れる気配がないって事は好きだからって事じゃねぇの?良くわかんないけど。

「まぁ、確かに。他の男などどうでもいいが、貴様とセックス出来なくなるのは勿体無いな」
「何だそれ。お前のモノの考え方おかしいだろ。それがお前の好き嫌いの基準かよ」
「そうだ」
「即答すんな。あーもー何でオレこんな奴と一緒にいるんだろう」
「好きだからだろう?」
「そこで言うな」

 実際間違ってはいないけどね。それにしたって表現方法ってもんがあんだろうよ。……ったく恥かし気もなく遊びの名残ぜーんぶ残してオレんとこ来るとかその神経がありえねぇよ。身体からは件のサムライの匂いはプンプンするし、お前は女か!ってほど綺麗な肌にはものの見事なキスマーク。極めつけはコートのポケットに入っている相手の時計と来た。なんかそこそこ高そうな奴。

 海馬はしれっと「忘れていったから持って来た」なーんて言ってるけど、それ相手の策略だから。時計を口実に直接会いに来させてそのままもう一回やりたいだけだろ。呼び出しは絶対ホテルだな、間違いない。

 そう言ってやったら、こいつってば涼しい顔で「そうだろうな」だって。二回目ヤる気満々かよ。文句言ってた癖に案外気に入ってんじゃねーか。てめ、殴るぞ。

 まーでも、そんな海馬を目の前にして「今部屋に連れ込んだ女寝てるから、お前のとこにしよう」なんて言うオレも大概で。結局オレ達はどっちも最低の男って訳だ。お似合いじゃんね。

 そういや静香が最近冷ややかな目でオレを見るようになったな。モクバも海馬とはあんまし口利いてないみたいだし。これって結構ヤバイ事かもしんない。でも、やめろって言われても無理だししょうがない。しょうがないから、そっちをちょっとだけ諦めた。
 

 諦める方間違ってる?うん、分かってる。
 

 ベッドヘッドに背中を預けて相変わらず海馬を膝に乗せていたオレは、そのままちょっとだけ奴に腰を浮かせて貰うと上半身をずりあげて体勢を整える。そして海馬をもっと引き寄せてゆっくりとキスをした。オレもこいつも経験値だけは無駄にあるから、一回唇を合わせると凄い事になる。ぶっちゃけて言えばキスだけでイかせられるし相手もイく。

 ……ほらイッた。腹の上に散る熱い精液の感触が気持ち悪い。

 ちなみにオレはさっきからずっと海馬の中に入ったままだから、海馬がイくと同時に締め付けられてオレもイッた。動かないでイけるとか女相手だとなかなかなくて、それがまた新鮮でいいなぁって思う。

 そう、オレにとっては海馬とのセックスは新鮮で面白いんだ。唯一の男だし。誰よりも上手いし。やっぱり、ナンバーワンなのは間違いない。うん。
 

「なー、いつまでこんな事続けんのかなぁ」
 

 長い長いキスの後、生温い唾液で唇同士を繋げたまま、オレはぽつりとそんな事を呟いた。この年で将来を悲観するとかちょっと早いけれど。やっぱこんな生活がいつまで続くとは限らない。若気の至りは若いからこそ許されるんだし、馬鹿だ最低だと色んな人間に言われてるオレだけど、その辺は一応ちゃんと考えてる。ただ、途中で面倒くさくなって放棄しちまうんだけど。
 

「嫌ならやめればいいだろう」
「別に嫌じゃないんだけどさ」
「今の内だけだ。それなりに年を取れば見向きもされなくなる」
「お前って馬鹿だとばっかり思ってたけど、案外まともなとこもあるんだな」
「ふざけるなよ」
「年取ったらかー。今度は渋みが出て『オジさんかっこいい!』なんて言われたりして」
「犯罪にならないように気を付けろよ」
「お前がそれを言うか。つーか逆に今のお前が犯罪じゃねぇ?相手ジジイ多いだろ」
「捕まるのがオレじゃなければどうでもいい」
「どこまで悪魔なんだお前。このエロ悪魔」
「貴様にだけは言われたくないわ」
 

 ほんっとどうしようもねぇなコイツ。
 

 それでもオレは、こいつと別れる事だけは考えられない。お互いにジジイになって誰にも見向きされなくなっても、オレには余り関係ない。そもそもコイツ見かけ変わらなそうだし……ってそんなオレも本当にどうしようもないと自分でも思う。なんなんだオレ達。
 

「この後の予定は?」
「サムライ男と会う。時計を返す」
「……ああそう」
「貴様は家に帰るんだろう」
「うん。女ほっぽって来たし」
「最低だな」
「お互いにな」
 

 でも、好きだぜ?お前とはたまにこうしていたい。

 散々罵りあった後、ついでのようにそう言ってやったら、海馬も笑って「そうだな」って呟いた。
 

 そして、何度目かのキスをする。触れるだけだったそれは、今日やったどんな深いキスよりも甘くて、気持ちよくて、そして……泣きたくなるほど、冷たかった。