Act1 って、オイ!

「あのさぁ、オレ、お前の事が好きなんだけど」
「そうか」
「そんでさぁ、真面目なお付き合いを希望しているわけよ」
「なるほど」
「真面目なお付き合いって言ってもダチとしてじゃなくってちゃんと恋人でー」
「そのニュアンスだとそうだろうな」
「まぁそういう訳で、恋人にならねぇ?」
「別に構わんが」
「あ、そうなの?じゃーそういう事で……ってオイ!!」
「なんだ」
「お前、オレの話聞いてんのか!!」
「聞いている」
「嘘吐け!!さっきから一瞬たりとも手が止まってねーじゃねぇか!!」
「貴様の矮小な脳と同じにしないで貰おうか。何をしていても話ぐらい聞こえるわ」
「聞こえてるのか……海馬のバーカ」
「聞こえていると言っている。貴様殴られたいのか」
「……うわ、マジだよ。つか、お前本当に今の話ちゃんと聞いて理解してんのか?」
「馬鹿にしているのか?」
「睨むな!こえぇよ!!シャープペンをこっちに向けるな!」
「フン!」
「や、だ、だってよー」

 まさかそうもあっさりとOKするとは思わねぇじゃねぇか。あの天下の海馬瀬人が、野郎に、しかもこれまで散々罵り合って馬鹿にして来た相手に「付き合って下さい!」なんて言われてさ。想像もつかねぇ。いや実際こんな風だったってのは分かったんだけど。それにしたって夢でも吃驚だろこんな事態。え?何?一体何ごと?!

「……何故そんな間抜けな顔をしている」
「間抜け言うな。しょうがねぇだろ!予想外の事態に頭がついていかねーんだよ!」
「何を訳の分からない事を言っている。言い出したのは貴様だろうが」
「それはそうなんだけど。まさかOKされるとは夢にも思ってなかったからよ」
「貴様は最初から負ける勝負を挑むのが好きなのか?」
「す、好きじゃねぇけど」
「ならば別におかしな事ではないだろう」
「……うーん」

 いや、おかしいって。絶対おかしい。そう即座に突っ込みを入れたくてしょうがなかったけど、また海馬にやり込められるのは分かっているから、オレはぐっと口を噤んで、逆に座って目の前にある椅子の背の上に組んだ腕に顎を乗せて溜息を吐いた。丁度その先に姿勢を正して課題に取り組む海馬がいる。

 放課後の教室に二人きり。オレは別に用があって残ってた訳じゃなく、海馬が終業後に姿を見せたからチャンスとばかりに居座っただけだ。少し前から何の気の迷いか喧嘩相手であるコイツの事が気になりだして、なんでだろうと考えるうちに好きになった。オレの恋の経緯なんて毎度こんなもんだ。まあ、今までは相手は勿論女だったけれど。

 ……それにしても、普通の人間ならこんな事を言われた場合、物凄くビビるか、冗談に取って爆笑するか、ヤバイ奴だと本気で心配するかのどれかなのに、目の前のコイツは顔色一つ、眉一つ動かさずに平然と受け止めやがった。……実際に受け止めたかどうかは良く分からねぇけど、少なくても言葉の意味を理解してちゃんと返事をしている訳だから、まあ大体は似たようなもんなんだろう。自分で言うのもなんだけど男もオッケーってどうなの実際。つーかコイツまさか最初からそうなの?教えて神様。

「……あー、なんていうかさぁ。あんな事言った後でこんな事言うのはすんごく失礼なのは分かってるんですけどー。お前ってそーゆーの大丈夫なの?ていうかむしろそっち系?」
「指示語で話をするな。はっきり言え」
「言わなくても分かんだろーが」
「そういう貴様はどうなのだ」
「うぇ?!オレ?!……えぇっと、今までは至って普通だった」
「では今はなんだ」
「……な、なんでしょう」

 相変わらず真面目な顔をして山の様な課題を凄いスピードで処理をしている海馬に、オレは少しだけ顔を上げて、ちょっとだけ遠慮がちに声をかけた。やっぱそういう事は最初にちゃんとしておかねーと駄目だと思うし。うん。

 が、そんなオレの言葉をやっぱりどっしりとした様相で受け止めた海馬くんは、その後オレが息を吐く暇も与えずに、常人には全くもって理解不能な言葉を次々と吐き出した。

「フン。男が好きなのか?」
「ちょ、いやそういう訳じゃ……他の奴の事はまったくもって何とも思わねぇし、ダチはダチだ。ってか、オレの事はどうでもいいじゃねぇか!」
「人に聞く場合はまず己の事を話すのが礼儀だろうが」
「あーまーそうです……か?……ってかそんな事よりお前だって」
「別に」
「はい?」
「考えた事がないから分からん」
「はい?」
「そもそもそういう意味で好かれた事も好いた事もないから分からん」
「……ああそういう……って、ええ?!じゃ、じゃあなんでお前今即答したんだよ?!」
「経験してみるのもいいと思ってな」
「経験?!」
「何事も勉強だ」
「はぁ、勉強ねぇ……って、やっぱ待て!!勉強?!オレとの恋愛が勉強?!」
「………………」
「あ、そこで無視?無視なの?」
「………………」
「つか、普通そういう経験っていうか、勉強?あーなんか良く分かんねぇけど、そういう事するんなら適切な相手がいるんじゃねぇの?基本的に性別が違うだろうが、性別が!」
「女と、という事か?」
「そうそう」
「別に順番などどうでもよかろう」
「いや、順番っていうか!」
「煩いな。言い出した側がごちゃごちゃ言うな。貴様は一体どうしたいのだ」
「ど、どうしたいって……オレは、最初に言った通りだけど……」
「ならば問題ないだろう。了解したと言っている」
「………………」

 なんだろう、この妙なもやもやは。告白が成功したのにちっとも嬉しくないんですけど。てか、これ成功してるよな?失敗じゃねぇよな?いいんだよな?

 もう何が何だか分からなくなったオレは、それ以上追及するのも疲れちまって、後は適当に「じゃあ宜しく。とりあえずメアドと携帯ナンバー教えて」と言い捨てた。すると海馬はやっぱり下を向いたままでオレに自分の携帯を投げて寄こした。なんだこの適当な態度。嬉しくねぇなぁ。

 ……とりあえず、突っ込みどころ満載の海馬くんとの恋愛はこうして始まる事になりました。

 ものすごーく不安ですけど。まあ、楽しんでみようと思う。