Act1 え、いや…別に……僕達は……ねぇ?

「実際の所さ、お前らどうな訳?」

 その一言は、最初なんとなくからかうつもりで口にしただけだった。授業の合間の少しだけ教師が席を外している退屈な数分間。オレは昨日のバイトが堪えて大分ぼんやりしている頭をすっきりさせる為に丁度前の席にいた遊戯に眠気覚ましに声をかけた。

 話題は何でも良かったんだけど、たまたま頭に浮かんだのが最近特に目に付く様になったこいつと、今日は珍しく朝から登校して生真面目に授業を受けている『あいつ』の仲睦ましさだったから、それにしようと思って声に出した訳なんだけど。

 そしたら遊戯の奴、慌てて身体ごと顔をオレの向けてくると、余りにも分かり易く顔を真っ赤にさせてあわあわと手と口をばたつかせていた。この反応は、ぶっちゃけ思った以上だった。

 うわー……なんていうかもう、分かり易い事で。

「え?何が?」
「いや何がって、『あいつ』と付き合っちゃってるとか。もっとぶっちゃけて言えばコイビト同士なのか、って事を聞いてんだけど」
「え?!え?!……えーっと、その。どうしたの急に?」
「……こう言う話に急も急じゃないもあんのかよ。ただ単に気になったから聞いてみただけなんだけど」
「あ、そう」

 そんな状態でも遊戯は空っとぼけるつもりなのか(まぁ多分突然過ぎて純粋にパニクってるだけなんだろうけど)、真っ赤な顔に汗までかきながら、それでも声は比較的冷静にオレの問いに答えて来る。

 いやいや遊戯くん。今更何をどう誤魔化そうとしたって手遅れですから。オレ、その実全部知ってるし。ただ、それを本人達の口から聞いた事がないから聞いてみよっかなーなんて思っただけで。

 なんつーか、予想通りの反応で俄然面白くなって来た。遊戯には可哀想だけど、もうちょっとだけ遊ばせて貰いましょうか。

「で、どうなんだ?」
「ど、どうって……」
「別にそうなら隠す必要ないじゃん。オレ、そういうヘンケンとか特にないし?親友だろー?教えてくれよ」
「………………」

 一度ターゲットロックオンするとそれでとことん遊ぶ節のあるオレは、相手が戸惑ってるからって追及の手を緩めるなんつー事は勿論しない。向こうが焦れば焦るほど面白くなるだけだ。我ながら性格が悪いと思うけど、特に深刻な事態になった事はないからこれからもこのスタンスは貫いて行くと思う。って、そんな事は今はどうでもいいんだけど。

 そんなオレの攻撃に、遊戯は暫くの間顔を顰めて「あー…」だの「うー」だの呻きつつオレの顔をチラチラ見てたけど、オレが引くつもりがないと知ると諦めた様に天を仰いで、やがて決心した様にバンッ!と勢い良く机に両手を付くと急に立ち上がって早足で歩き出した。

「ちょっと待ってて!」
「へ?待つってどういう……おい、遊戯っ!」

 奴の唐突なその行動に流石のオレもビックリして殆ど小走りで後ろの方に向かって行く背中を引き留めようと声をかける。が、遊戯はまるっと無視でずんずんと足を進めて……教室の一番後ろの席にいる海馬の所に辿り着いた。

 ちょ、お前もしや、今のオレの質問に対して当事者同士で話し合うつもりかよ?っつーか話し合う事なのかそれ?おいっ!

 そんなオレの呆気に取られた視界の中では、件の二人が何かこそこそと小声で話し合い……なんか勝手に顔を真っ赤にしている。お、おいおい何その反応。もしかして、今更そんなに照れてるわけ?つーか確定?確定なんですか?!

 いやそれは分かってんだけど。なんていうか……なんていうかぁ!

 奴らが、見てる方が恥ずかしくなる様なこそこそ話を始めてから数分、漸く話が纏まったのか、行った時の勢いとはまるっきり逆で「しずしず」って表現が一番似合う、男がするには微妙にキモチワルイ歩き方をしながら帰って来た遊戯は、相変わらず真っ赤な顔のまま、小さな声でこう言った。
 

「えっと、僕達は、つ、付き合ってとか、そんな事ないよ。全然!」
 

 嘘こけ!!バレバレだっつーの!!つか、全然ないとか言い切るならオレの目を見ろ!海馬に至っては本で顔を隠すのやめろ!馬鹿かお前ら!!

「…………あ、そう」
「う、うん」
「お前、顔真っ赤だぜ」
「気のせいだよ」
「海馬のアレはどう説明すんの」
「暑いんじゃないの?ほら、海馬くん暖房に一番近い所にいるからきっと」
「ふーーーーん」
「城之内くん」
「何?」
「この間買った雑誌、貸してあげよっか?」
「雑誌だけじゃなーDVDも無いと、パンチが足りねーなぁ」
「じゃあそれもつける」
「さんきゅ!やっぱお前は話が分かるぜ!ま、オレはなんとも思ってねーから」
「ありがと」
「ま、気にすんな!オレとお前は友達だからよ!そうだろ?」

 そう言って、バンバンと遊戯の肩を叩いてやると、奴は観念したのか「あはは……」と力のない笑い声を上げて、ぎこちない動きで自分の席へと帰って行った。

 よっしゃラッキー、あのDVD前々から観たいと思ってたんだよなー!これは我ながらいいトコ突いたって感じだぜ!

 思いがけない収穫にオレは一人ほくそ笑むと、タイミングよく帰って来た教師が教壇に上がるのを機嫌良く眺めながら、最後にちらっと後ろの海馬を盗み見る。そしたら奴は物凄い顔をしてオレの事を睨んでいた。大方余計なこと言うなってのと、遊戯と仲良くすんなっていうの両方の意味合いを込めてのガン飛ばしなんだろうけど。

 その真っ赤な顔じゃーどんなに睨んでも全然怖くないから。ご愁傷様。

 つーか素直に認めりゃいいのによ。変な奴ら。