消えない痕 Act10

 まるで、血の色のような夕日だ。

 視界に映る空の全てを真紅に染めあげるその光を眺めながら、彼はふとそんな事を呟いた。

 地上10階建ての建物の最上階。その上にある屋上に彼は一人静かに佇んでいた。普通のビルや学校のそれとは違い、そこは歩きやすく徹底して整備された歩道と、美しい緑、そして夜にも問題なく訪れる事が出来るように等間隔にしっかりとした外灯まで設置されている。まるで、ちょっとした自然公園のような作りだった。

 その緑に囲まれた空間の一番端、穏やかな景色とはまるで似合わない頑丈な金属で出来ているフェンスの元に彼……城之内は佇んでいた。

 もうどれ位そうしているか分からない。確か彼がこの建物……童実野から大分離れた田舎都市の大きな私立病院に訪れたのは面会開始時刻ギリギリの日もまだ高い内だったので、相当な時間が経過している事だけはわかった。

 けれどそんな当たり前の時間感覚は今の城之内には存在していなかった。その実彼には今日が何月何日で、今が何時なのかさえ曖昧だった。ここ最近の世の中の動きも何一つ分からない。意図的に情報を遮断し続けた結果だった。

 テレビや新聞、雑誌など何を見ても……あの名前が目に入ってしまうから。

 それだけで耐え難い心の苦痛に苛まれる彼にとって、それは何よりも辛い事だった。

 あの日から今日まで、酷く苦しい毎日だった。心が休まる時など一瞬たりともない。起きていても、眠っている時でさえ繰り返し同じ事を思い出し、後悔の念が頭を過ぎる。どうしてこんな事になってしまったのだろう。何度そう思っても、答え等出るはずもなかった。

 血のような赤い夕日。

 血塗れの、その姿。

 自分が手を下したわけではなくても、結果的には似たようなものだ。この手を伸ばし引きずり込んでしまったからこそこんな事になってしまった。あの暑い晩夏に熱に浮かされた状態で軽はずみな事をしてしまったから……。

「────── っ!」

 ガシャリと音を立ててフェンスに拳を叩きつける。そんな事もう何十回も何百回も考えた。分かってる、全部悪いのはオレなんだ。こうなる事をおぼろげに分かっていて、途中で留まる事も出来たのに、それすらもしなかった。あいつなら、あいつとならどうにかなるかと思っていたのに。どうにも……ならなかった。ただ傷つけて終わってしまった。

 それだけならまだしも、こうして逃げてきてしまった。合わす顔がない、という大義名分を振りかざして、その実ただ怖いだけなのだ。怖くて怖くて……ただ逃げるしか術がなかったのだ。

 けれど、何時までもこうして逃げてばかりいられない事も分かっていた。どうすればいいのだろう。どうすれば。

 徐々に赤から紫へと変化する毒々しささえ感じるその光を眺めながら、城之内は深く項垂れて唇を噛み締めた。少しずつ冷えていく外気温に薄いコート一枚では寒さを感じて、彼は漸くこの場から動こうと思い至った。のろのろと顔を上げ、建物内に入ろうと、重い身体を反転させる。

 その時だった。
 

「……城之内くん!」
 

 余りにも聞き慣れた、けれど久しく耳にしていなかった高く、大きなその声に、城之内は驚愕して目を瞠った。
 

「……ゆ、うぎ……」
 

 強く吹き始めた冷たい冬の夜風が、距離を置いて佇む二人の間を吹きぬけた。
 

「……遊戯、お前、どうしてここに?!」
「やっと見つけた。城之内くん、携帯の電源切りっぱなしでいなくなっちゃうんだもん。凄く探したんだよ」
「オレの質問に答えろよ!」
「静香ちゃんに聞いたら君がここだって教えてくれて。教えられたお母さんの病室にいなかったから、屋上にでもいるのかなって、上って来たんだ。そうしたら本当にいるんだもん。僕も結構勘いいよね」
「……何しに来たんだよ」
「何しにって?ただ、会いに来ただけだけど。ずっと学校にも来ていないから、心配してたんだよ。他の皆も凄く気にしてる。それに……」
「それに……なんだよ」
「海馬くんに、頼まれたから」
「────── !」
「連れて来いって、本気でお願いされたから。僕は……」

 一つ、また一つと外灯が灯り始めた。暗闇に光る乳白色のその光は目の前に立つ遊戯の顔をぼんやりと照らしている。学校から真っ直ぐやってきたのだろうか。いつもの学生服に通学鞄を携えて、ただじっと城之内を見上げている。
 

 『海馬』
 

 眼下の口から飛び出した、己の胸を容赦なく抉るその名前に、城之内は痛みを感じて思わず顔を歪めてしまう。そんな彼を、僅かに目を細めて眺めるというよりは睨み付けていた遊戯は、小さな溜息を一つ吐くと、やけに静かな声で言葉を続けた。

「僕は、あの事故の日に……ううん、君達に何があったのか、全然分からないけれど」
「………………」
「海馬くん、泣いてたよ」
「……え?」
「声も、涙も流さないで、泣いてた。……君が、いないから」
「………………」
「どうしていなくなったりしたの?城之内くんらしくもない。海馬くんを置き去りにして、こんなに皆に心配かけて、最低だよ。僕、こうみえて凄く怒ってるんだからね」
「ごめ……」
「謝るのは僕にじゃないでしょ。……とにかく、病院の中に入ろう?風邪引いちゃうから」

 ね?

 そう言って自ら歩み寄りダラリと力なく下がっている城之内の手を取った遊戯は、一瞬だけ笑顔を見せた後ゆっくりと歩き出した。その動きに殆ど引きずられる形で城之内も歩き出す。突然の遊戯の出現に戸惑う間もなく、静かな声で糾弾された。その事に城之内は酷い衝撃を受けていた。何もかもが突然すぎて、どう受け止めたらいいのか分からない。
 

 二人は無言のまま、靴擦れの音だけが響いていた。

 手首を掴む柔らかな遊戯の手は、とても……冷たかった。
『……オレは過去に『父親』を二人殺した。……だからもう、目の前で『父親』が死ぬのを見たくない』
 

 あの、運命の日。

 ざあざあと降り注ぐ雨の中、端正な顔をこれでもかと歪め白い息ごとそう吐き出した海馬の顔は、今でもよく覚えている。どういう意味だよそれは。なんでその口からそんな物騒な台詞が出てくんだよ。そう問いかけようにも状況が状況故にままならなかった。けれど、海馬が自分に酷く優しい訳がそれで漸く分かったのだ。

 二人の共通するキーワードは『父親』だった。

 酒乱の父親から受けた暴力。自ら望んで引き取られた先で受けた義父からの虐待。それらの非道な過去は全て彼らの身体に傷痕として残されていた。それらを知ってからは癒す様に、慈しむ様に、二人は掌でその痕を辿り、時には口付けを落として過去として整理された記憶を鮮やかに蘇らせ、当時の苦痛ごと胸に擁いた。

 海馬の義父はもうこの世には存在していなかったが、未だ父親が健在な城之内の傷は日々真新しいものと変わって行った。それに気づく度に海馬はまるで自分の事のように顔を歪め、怒りを露わにして城之内を睨み付けた。そして、やるせない思いを胸にその傷に手を伸ばした。繰り返される日々。けれど、状況が変わる事はなかった。変える事もできなかった。
 

 その先に待っていたのが、この、最悪の悲劇である。
 

 父親をもう死なせたくないと言って、あの日海馬は泣いていた。
 

 そして、前日に……城之内が無意識に出したSOSに気づき、駆けつけた矢先に理不尽な暴力を受けて、酷い傷を負ったあの腕で──。
 

 ── 城之内の父親を、救ったのだ。己の命と引き換えに。
 

 腕の中に倒れこんでくる父親の重みとその衝撃に息を詰める暇もなく大きく響いた衝撃音。目の前にいた海馬が一瞬にして消え失せたあの瞬間の驚愕を未だに城之内は鮮明に覚えている。時刻を忘れ思わず大声で叫び声を上げ状況を確認するより先に、その直前に彼から言われた言葉を思い出した。
 

『早く行け、城之内。父親を、死なせるな!』
 

 だから、城之内はその場から姿を消したのだ。腕の中に父親を抱えたまま。消えた海馬を……否、暴走車に弾き飛ばされた彼を……省みる事無く。
 

 あの後すぐに泣きながら携帯で救急に連絡した後、城之内は例の病院へ父親を運びこんだ。後少し遅ければ生命の危機だったろうと老医師から告げられた瞬間、その場に座り込んでしまって動けなくなった。本当に、危機一髪だったのだ。
 

 ……しかし、その代償として支払ったものは余りにも大きかった。
 

 幾度も幾度も頭の中で繰り返されるその瞬間を思う度に、城之内は自らの拳をあらゆる所に叩き付けた。

 海馬に何を言われたからといって、見捨ててしまった事には代わりがないのだ。奇跡的に命を取り留めはしたものの、死んだっておかしくない事故だった。

 酷い事を沢山した、数え切れない迷惑をかけた、心の底から依存した時期もあった。もう何をしても返せないほどの借りを作った。それなのに。

 ただ「ごめん」の一言で無に帰そうとした。それでも、彼はまた来てくれた。そんな事は許さないと自分を詰って、寒空の下ずぶ濡れになって手を差し伸べてきた。けれど、それらを全部捨てて、逃げ出した。

 最低だ、自分なんて。もう幾度繰り返したか知れない台詞を吐き出して身体的痛みを自分に与える。そうする事によって、贖罪をしているつもりだった。
 

 ── そんなものは、ただの自己満足にしか過ぎないのに。
 

「城之内くん」
 

 不意に強く握り締めていた手に柔らかな指が触れた。はっとして顔をあげると、幾分穏やかな表情を湛えた遊戯が手にした湯気を立てるカップをそっと差し出してきた。思わずそれを受け取ってしまい、「飲みなよ」の優しい声に、城之内はのろのろとカップを己の口元へと持って行く。暖かなココアの甘すぎる熱が、ゆっくりと喉を滑り落ちて身体を温めた。

 ざあざあと響く雨音かと聞き間違える程の耳障りな音は、部屋に取り付けられた空調機器のものだと言う事に気づく。少人数用の小さな面会室で、扉に使用中の札を掲げて彼らは大分前からこの部屋で向かい会っていた。そういえばそうだった。城之内は軽く頭を振ると、漸く今は遊戯と二人きりだという事を思い出す。

 こんな時に、あの時の回想をするなんて、どうかしている。背を流れる冷や汗を不快に感じながら城之内は大きく息をついた。そんな彼の事を、遊戯は何を言うまでもなく見守っている。城之内が過去の記憶に浸っていられたのも、遊戯のその沈黙のお陰なのだろう。

 その優しさが、今の城之内には有難かった。けれど同時に重くもあった。いっその事先程のように詰られでもした方が、気は楽だ。殴ってくれればもっといい。けれど、そんな事を遊戯がするはずもなく、城之内も本当は望んでなどいなかった。

 胸が苦しい。部屋はとても温かいのに、身体が凍えている気がする。それにも関わらず背中には汗が流れる。気持ち悪い。どうしたらいいのか分からない。誰かに助けて貰いたい。……誰かに。

 そこで、一番に頭に思い描いた顔に、城之内は酷く顔を歪めた。

 馬鹿だな、そいつが苦しみの原因じゃねぇか。何を考えているんだよ。
 もう一生、顔を合わせる事なんか出来ないのに。
 

 ── 海馬。
 

 城之内はぐしゃりと、手の中のカップを握り締めた。中身のココアが、城之内の手を汚し、無残に床へと広がった。
 

 甘い香りが、まるで血の匂いのようで……不快だった。
「城之内くん」

 静かな部屋に、再び遊戯の声が響く。

 ぽたり、ぽたりと床に落ちていく茶褐色の液体をただ見つめながら、城之内は項垂れたまま動かなかった。そんな彼に特に何を言うでもなく名を呼んだきり再び口を噤んでしまった遊戯は、徐に立ち上がり備え付けの布巾で汚れた城之内の手と床を拭き取ってしまうと、小さな溜息を一つ吐いた。

「海馬くんね、思ったより元気だったよ。勿論酷い怪我だったけれど、僕と長い時間話しても疲れた様子はなかったし、声にもちゃんと覇気があった。モクバくんの話だと予想よりもずっと早く治りそうだって」
「………………」
「だから、城之内くんが思う程大変な事じゃない。僕が言うのも変だけど」
「……そっか。でもよ、そんなの、何の慰めにもならねぇよ」
「だよね。それは分かってる。海馬くんの怪我がどんなに軽くたって、君がしてしまった事……何をしてしまったのかは、僕には分からないけれど……それは変わらないもの。でもだからって、そうやって逃げているのはズルイと思うよ。一番してはいけない事じゃないの?」
「分かってるよ」
「分かってるんなら、どうしてここにいるの?連絡手段を全部絶ってしまったの?」
「それは」
「海馬くんね。君が来ないなら、病室から飛び降りてやるって言ってたよ。オレを殺したくなかったら戻って来いって!そんな事を口にしてしまう程、海馬くんは君に帰って来て欲しいんだよ!!」
「!!何だよそれ!」
「海馬くんにそこまで言わせて、それでもまだ逃げるつもりなの?城之内くん!」

 ぎゅ、と触れた指先をきつく握り締めて、遊戯は城之内を睨みつける。力の入った指先はその爪先深く城之内の皮膚に食い込み、鋭い痛みを伝えてくる。間近に迫った真剣な遊戯の顔が今までにない程強張って、常に柔らかな光を湛える大きな瞳は、苦痛に歪んで揺れていた。

「僕は……死ぬとか殺すとか……そんな言葉を友達の口から聞きたくないよ……どうしてこんな事になってしまったの?君達は、恋人だったんでしょ?好き合ってたんでしょ、お互いに」
「………………」
「城之内くん!」

 何時の間にか指先を掴んでいた遊戯の手が肩にかかり、がくがくと揺さぶりをかける。力なく項垂れる金色の頭は遊戯の動きに合わせて前後に揺れる。ぶれる視界に吐き気を感じ、それでも抵抗する気力は一切なかった。
 

 恋人、なんかじゃない。海馬とオレは。こんなもの、恋愛と言えるわけがない。
 

 勿論恋人になりたいから告白をした。好きで好きでどうしようもなかった。色んな事を夢みていた。抱えるものが重過ぎて諦めていた色々な事を、海馬には全て晒して手を伸ばした。それを握り返してくれた。頼っていいと言ってくれた。嬉しかった。そして苦しかった。

 海馬は酷く優しくて、優しくされればされる程自分の身勝手さに気づいて絶望した。手を引こうとしたけれど、もう引けない所まで来てしまって、結果的に最悪の事態を招いてしまった。こうなる事を頭の何処かで分かっていて、それでも海馬なら……海馬となら大丈夫だと、そう思ったのに。

 実際は城之内が耐えられなくなった。自分の所為で血を流すその姿を見た瞬間、ギリギリのところで保たれていた何かがぷつりと切れてしまったのだ。もう駄目だ、これ以上は耐えられない。自分の所為で誰かが傷つくのはもう沢山だ。自分さえいなくなれば海馬だって余計な荷物を背負う事はない。苦しむ必要なんかない。自分さえいなければ。そう思ったから。
 

「オレ、が、いなくなれば。海馬だって余計な事に首を突っ込む必要はなくなる。……オレの、所為で……」
 

 途切れ途切れに紡ぐ声が更に喉に詰って消えていく。こんな所で泣いてなんかいられないのに、込みあげる嗚咽を堪える事が出来ない。悲しさに悔しさに怒りに泣いて、もう涙なんて枯れてしまったと思ったのに。

 膝の上に置いた手をきつくきつく握り締める。もう痛みなど感じない。何が痛いのかなど分からなくなってしまった。薄暗い病院の中で、雪が舞う酷く寒い冬空の下で、夜の闇を照らす華やかなネオンの元で、何度も何度も悩んで、考えて、導き出した答えだった。

 本当は、物理的に消えてしまいたいとも思っていた。けれど、それだけはなんとか踏み留まっている状況なのだ。

「………………」

 その一言を呟いたきり、唇を噛み締めただ身を震わせる城之内を遊戯は激しい怒りを持って見下ろしていた。今の彼を見ると海馬が何故あんな言葉を口にしたのか痛いほど分かる。満足に言葉を紡ぐ事すら出来ず、遊戯のさほど激しくも無い糾弾に俯いて身を縮めてしまう程、彼は怯えているのだ。他人に、海馬に……向き合う事に。

 けれど、海馬はそれすら知りながらまだ手を伸ばしている。逃げる事など許さないと、あの澄んだ瞳で城之内を見つめている。どんなに傷ついても、命すら危うくなっても、まだその手を差し伸べているのだ。離れたくないと、離すものかと、そう、叫びながら。

「城之内くんは自分勝手すぎるよ。海馬くんに告白したのは、その手を最初に伸ばしたのは君なんでしょう?あの夏の日、君は僕に言ったよね、悲しいし、辛いって。それを知りながら、どうして君は離れなかったの?あの時既に分かっていたのに、分かっていて一緒にいた筈なのに、なんで今更そんな事を言うの!?無責任に自分なんか消えてしまえばいいなんて言えるんだよ!」
「ゆ……」
「海馬くんは君の所為で傷ついたなんて思ってないんだよ!それでもいいからこそ、一緒にいてくれたんでしょ?そして、戻って来いっていってるんでしょ?!」
「でも」
「どうして海馬くんを信じてあげないの?!勝手に思い込んで、一人で決めて、そこに海馬くんの意思なんてないじゃないか!自分の所為だから、迷惑をかけるのが嫌だから離れるなんてただの言い訳でしょ?君は……海馬くんから、自分の苦しみから逃げてるだけだよ!」
「………………」
「こんな事は言いたくないけど……彼を巻き込んだのは君なんだよ?君さえ彼に手を伸ばさなければこんな事にはならなかった。そうでしょ?分かってるんでしょ?だったら責任を取らなくちゃ!」
「……責、任?」
「そうだよ。ちゃんと海馬くんに謝って、これからどうするか、どうしたいか、話しあえばいい。駄目なら駄目って納得のいく理由をきちんと示して。そうじゃないと、ずっと苦しいんだよ。君も、彼も」
「………………」
「海馬くんは、僕に君を無理やり連れて来いとは言わなかった。ただ、さっきの台詞を伝えてくれって。海馬くんは、君が君の意思で……自分の所に戻ってくる事を待ってるんだ。言っておくけど、海馬くんの目は本気だったよ。彼の命は君が握っているも同然だね」
 

 まさか、二度も見捨てるなんて事はしないよね?今度は『奇跡』は起きないよ?
 

 常の彼には絶対に見られない半ば脅しにも似たその台詞は震えてはいたけれど、強く城之内の胸奥に突き刺さった。今度は酷い痛みを感じる。逃れられない、激しい痛みを。
 

「城之内くん。僕も、海馬くんも……君を信じてるよ」
 

 未だ上がる事の無い顔を上から見つめながら、遊戯はその肩を包み込み、いつもの彼が発するゆったりとした優しい声で、そう一言囁いた。