カリスマ Act5

 昔は始まれば最後まで全力疾走だったセックスも、今では本当に普通の生活サイクルの一つになっていて、途中で止めるとか逃げるとかいう心配がない分随分と余裕を持てる様になったと思う(逆を返せば過去にはそういう事も多々あった)。

 だからさっきの様にソファーで始めたって最後までそこでなんて事は滅多に無くなったし、酷い時は床の上で、なんて事も当然無くなった。ヤるのはいいけど、後始末の面で色々と大変だったりするから、落ち着いて良かったな、と思う。つーかそれって全部オレの事だけど。

 海馬の手を引いて背後にあるベッドへと移動する。場所を移すなんて言ったってワンルームなんだからその距離なんてたかが知れたもので、数歩歩けば直ぐに辿り着いてしまう。海馬と寝る事を考えてそれだけは少し大きめのセミダブルのベッドに先に腰かけたオレは、掴んだ海馬の手を離さないまま、ちらりと上を見上げた。そして、やっと眠気が覚めて来た顔でオレを見下げて来る奴に笑いかける。

「まだ眠い?」
「別に」
「お前のそれは怪しいからなー。どうしよっかなー」

 その言葉通り、こいつの『別に』ほど信用ならないもんはない。過去何回それで泣きを見たか。そんな事を思いながら……オレはちょっとだけ考えた。危ない時は確実な道を行けってね。そういや最近して貰ってない気がするし、いい機会かも?

 ……ってな事をコンマ0.5秒で考えたオレは、未だ特に表情も変えずに立ちつくしている海馬の手を引いてさり気なくこう言った。

「してくれよ。たまにはいいだろ?眠気覚ましにもなるし」
「……どういう理屈だ」
「だぁってお前転がすと絶対また眠くなるもん。な?」
「オレがすると文句を言う癖に」
「今日は言わないから。なぁ、お願い」

 自分でもいかにもわざとらしい、と分かっている両手を合わせて頭を下げる懇願のポーズに、頭上で小さな溜息を吐く音がする。温かいそれが頭頂部の髪に触れた、と思ったその瞬間、海馬の手がオレの頬に触れて来た。ついで柔らかな唇も。

 さっきの余韻で僅かに湿っていて凄く熱いそれは、ちゅ、と小さな音を立ててオレの頬にキスをする。次いで口に触れるだけのキスを落としつつ、普段からやけに器用な指先がするりと襟元に伸びて来て、適当に閉めていたシャツのボタンを外して行く。

 前はこんな事をやれ、なんて言った日にはもう大騒ぎだったのに、今は進んではやらないけどお願いすれば大抵はしてくれる。上手下手の観点から言えばお世辞にも上手いとは言えないけど、今日みたいにオレがベッド上に腰かけて、こいつが膝まづくなんて格好になる事自体が視覚的に興奮するから全く問題ない。海馬に言うと怒るけど。

 まぁ、お前は口から生まれたのか?って程普段から良く動く癖に、こんな所にまで品の良さが出ているのか人よりも大分小さい口で、常日頃は滅多に使わない筋肉を使ってするんだから上手くなるわけがないんだけどね。いつも指二本突っ込んだって苦しそうだし。

 それでも、海馬なりに一生懸命やってくれるから凄く嬉しい。最初は絶対に無理だと思っていたから、尚更。

 ぱさりとオレのシャツがシーツに落ちる音がする。そして首筋から鎖骨の窪み、肩先にまで丁寧に舌を這わせながら、指先はゆっくりと脇腹を通って腹筋を辿り、まだ履いたままのジーンズのホックを外して行く。どうせ脱ぐからって特にそれ以外履いてなかった所為でいきなりブツが出て来た事に驚くかと思いきやそうでもなく、奴は至って平静にオレの足からジーンズを抜き取って脇に退けた。そして徐にソレを握り込む。

 その様子を少しだけ乱れて来た息をこらえつつ観察しながら、オレは既に眼下にある海馬の髪に指を差し入れてその感触を楽しみながら緩く撫で、ケアしたてで殆ど絹糸みたいに柔らかく指の間を滑って行くそれに凄く満足しながら、海馬に上ずった声で続きは?と言ってみた。

 そしたら海馬は一瞬オレを見上げて抗議するように軽く目を細めると、ゆっくりと口を開けて先端に口付けた。身体の中でも比較的敏感な部分を生温かい舌で舐められて、流石のオレもビクッと腰が揺れてしまう。

 うわ、ヤバい。でもわざとじゃないんだから睨むなよ。そんな言葉を声に出さずに髪を撫でている指で伝えて、続けて?とばかりに掌を髪から頬へと滑らせると、温かいと感じる部分が少しだけ多くなる。あの口を目一杯開けてオレを頬張ってるって考えると、それだけで腰にかなり来る。ヤバい、ここで大きくさせたら、こいつ窒息するかも……って思った時には遅かった。

「……んぐっ……ん……っぅあ!」

 ちょっとの弾みで喉奥まで届いてしまったらしいそれに、海馬が盛大にえづいて思いっきりオレを吐き出してしまう。あ、やっぱりやっちゃったか。可哀想に。糸を引いた唾液もそのままにそれでもオレを掴んだまま、涙目になって激しく咳き込んでいる海馬に悪いと思いつつ、それすら興奮材料にしてしまう。オレって心底駄目男だわ。分かってるけど。

「わ、ごめん。大丈夫?」
「……っ、かはっ…!き、貴様、ふざけるなっ……」
「ごめんって、こればっかりは生理現象だから自分ではどうにも……でも、もう限界値だから後は大丈夫だぜ?」
「そ、そういう問題か!」
「そういう問題。だから、もう一回やって?」

 咳き込んだ衝撃で肩を忙しなく上下させる海馬の頭をもう一度緩く撫でて、オレは小さい子に言い聞かせるように優しくゆっくりとそう言った。

 まぁそんな事を言わなくても、オレに添えられている右手が離れる気配がないから黙っていても続きはしてくれるんだろうけど。

「………………」

 暫くの間呼吸を整えていた海馬は最後に大きく息をつくと気を取り直したように顔を上げて再びオレのモノに口を寄せた。

 今度はすぐ咥える真似はしないで竿の部分を辿るようにゆっくりと舐めあげる。本当に舌が触れるだけの柔らかな刺激に逆に凄く感じてしまったオレは、再び腰が大きく揺れるのを必死に堪えた。

 普段はするばかりでされる事なんて殆どないから、凄い些細な動きにも恥ずかしい位に感じる気がする。自分からやれって言った事だけど、いざやられると結構身体にも心にもクる。 オレよりも大分感じ安い体質っぽい海馬に、いつもからかい半分でお前感じ過ぎ、とかそんなに気持ちいいの?とかつい言っちまうけど、オレだって不感症じゃないから弄られれば反応するし、ともすれば声だって出てしまう。

 でも、その辺は入れる側のプライドっていうか、ここまで来ると男の意地っていうか、とにかくあんまりみっともない所は見せたくない。その辺は海馬だってそうだったけれど、こいつの場合は我慢強さと諦めの悪さがオレよりも劣っていた。それに、オレも海馬をなんとかして鳴かせようと躍起になったから、勝負は最初から見えていた。……そんな意地の張り合いも今じゃ殆ど笑い話になってるけどね。

 一通り外側の側面の舐められる所は全部舐めて、ご丁寧に根元にもきちんと舌を這わせて吸いついてくれた海馬は、顔を少し離してついさっきの失敗を生かしてか、いきなり喉奥に行かない様にしっかりとオレを握り込むと舌を添えつつ緩やかに口に入れた。

 気の所為かも知れないけど、その口内はさっきより酷く熱い。舌を添えた所為で狭くなった空間は、やっぱりオレが入り込むにはちょっと無理があって、コイツが最大限の努力をしても上の歯が当たって少し痛い。けど、それを上回る気持ち良さにオレは特に文句も言わずに海馬の好きな様にさせて置いた。

 余計な軽口を叩く余裕はもうオレにもない。

「……っふ、…く……っ」
「っ、頑張るのはいいけど、喉、詰まらせんなよ」

 基本的に要領のいいコイツは、こんな時にも持ち前の学習能力を発揮して、どうすれば自分が苦しくなく、尚且つオレに効率よく刺激を与える事が出来るか考えて、自分がえづかない位置に含んでいるオレの先端が来るように調整し、適度に吸い上げつつ顔と手も使って触れない部分が無い様にするかの如く熱心に口を使う。

「……んっ!」
「……うぁっ!」

 飲みこめない唾液と、オレから滲み出る先走りが混ざって口の端から溢れても気にせずに、苦しそうな息を堪えながらフェラをするその姿に、そしてタイミングよく緩く歯が立てられて与えられた刺激に、オレはいともあっさりとイッちまった。何時もは出る、位言ってやるのに今日はその余裕も全然なかった。

「……うッ!……んぅ…」
「あ、ヤベー……すっげ気持ちいい…」
「………………っ」
「咽んなよ。ゆっくりな」

 海馬が元々そのつもりでいた所為で、特に遠慮もしないでそのまま出してしまったオレは、直ぐに奴の口の中から抜け出して、濡れた唇の端を拭ってやる。そんなオレの事なんかお構いなしに、海馬はそんな気もないんだろうけど凄く泣きそうな顔で吐き出された精液を飲み込んで大きく息をついた。そしてすかさず文句を言う。

「……不味い」
「そりゃそーだろ。そんなにヤな顔するんなら無理しなくてもいいのに。吐き出せばいいじゃん」
「……そんなのはオレの勝手だ」
「じゃー文句言うな。オレは結構好きだけどなーお前の味」
「……っ?!」
「あはは。勿論精液が好きな訳じゃねぇよ?お前のだから好きだっつってんの」
「……悪趣味だ」
「なんとでも言って下さい。でも今日は凄く良かったぜ。お前もやれば出来るじゃん。偉い偉い」
「……ちっとも嬉しくないわ」
「なんでだよ褒めてんのに。お前はもの覚えはいいんだから、後は回数の問題だな」
「もうやらん」
「そんな事言わないで。ほら、こっち上がって来いよ、何時までもそこに座り込んでると身体が冷えるぞ」

 今日は珍しくオレが文句を言わずに褒めたもんだから、海馬はどう反応したらいいか分からないみたいで、いつの間にか顔を明後日の方向を向いて微妙な顔をしている。全く、オレだってちゃんと上手く出来た時はそれなりに評価してやるっつーの。実際スゲー気持ち良かったし。

 その想いを素直に言葉と顔に出して、ついでによしよし、と頭を撫でてやると、海馬はまた不機嫌そうな顔をしてオレを睨んでくる。けれど、その顔は赤く上気して、目は今の余韻で瞳が揺れるほど潤んでいるから、どこをどう見ても迫力なんかなかった。むしろ萌える。あ、これが今流行りの萌えって奴か。良く分かんねぇけど。

「ほら」

 そんな状態のまま何時まで経っても動こうとしない海馬に、オレはやっぱり小さい子にするようにだらりと力なく落ちている両腕と胴体の間に手を差し入れて脇の下から持ちあげる様に力を込める。流石に此処までされるとコイツも何時までも駄々を捏ねたりはしなくって、ゆっくりと腰を持ち上げて立ち上がり、オレが引く力に特に逆らう事無くベッドへと乗り上げた。

 未だ少し緩んだ程度のバスローブの合わせ目から覗く白い肌。オレはそこに直接触れる真似はせずに、とりあえず腰紐だけ抜き取って投げ捨てると、顔を寄せろとばかりに上にある首筋に腕を絡めて強く引いた。素直に、唇が落ちて来る。

 さらりと頬や鼻先を掠める海馬の髪。さっきはオレが上だったから分からなかったけれど、こうして直接肌に触れて来るとその感触は想像以上に気持ちいい。緩く息を吐く口を覆う様に唇を重ね、直ぐに奥まで舌を入れて中を探る。……うぇ、変な味。くそ不味い。っつか、オレの味だけど。

 精液なんてどれもこれも皆一緒なんだって分かってるけど、やっぱり気分的な問題なのか少なくても海馬の奴は不味いとは思わない。むしろ進んで飲む位だ。あ、これは変態って罵られても仕方ないわ。確かに変態だ。

「……ん……ふ…っ……んんっ」

 唇の合間から漏れる細い声。互いの舌を吸いあう感触。粘つく水音、汗ばむ肌。何時の間にかオレにしがみつく様に腕を回してくる海馬の胸元に唇は離さないまま指で触れて、さっき軽く弄った所を今度は本格的に撫で始める。興奮ですっかり固くなっている乳首を指の腹で強く擦り、時折爪で引っ掻く様に先端をなぶる。

 それに強く反応を示した海馬は、合わせていた唇を少し離して「んぁっ」と鼻に掛った声を上げた。僅かに見える舌先からとろりと落ちる唾液が妙にやらしく目に映る。それを真正面で捕らえながら、オレは少し頭を下げて、首と顔の付け根に吸いつき、喉仏を緩く噛んだ。その甘く緩やかな刺激に海馬は大きく身体を震わせる。

「……いっ……あっ!」
「ここ噛まれると怖いだろ。食われちまう気がしてさ」
「く、んっ…やめろ……っ」
「大丈夫大丈夫食ったりしないから。でも痕付けていい?」
「……駄目に決まっているだろう!そこは見える!」
「残念。じゃ、見えない所にする」
「……ふぁっ!」

 海馬が声を出す度に強く震えるそこに名残惜しげにキスを一つすると、オレは聞き分け良くその場所を諦めて、指で熱心に弄っていた胸先へと顔を落とした。少し強く抓まれた所為で赤くなり、芯でも入っているかのように凝っている先端は見た目からして凄く美味そうで。そんな訳がないとは思いつつ舐めたら甘いんだろうかなんて馬鹿な事を考えてしまう。

 呼吸と共に緩やかに上下するそこを視覚でも捕らえながら、オレは緩く舌を伸ばして、震えるそこに優しいキスを一つ落とした。