Act5 プライドなんてありません

 ちらりと前を見たら、海馬がソファーに腰かけたまま教科書片手にすうすう寝息を立てていた。

 あー、鉄の精神力を誇るこいつもついに限界か。まぁ、授業中眠れるオレと違って、昼間も仕事……しかもオレの為に夜まで持ち越さないように必死になってやってんだから、疲れるのもしょーがないよな。

 夕食後、モクバから貰ったくそ不味い栄養ドリンク2本飲んでもこの有様じゃー相当疲れてたんだろ。可哀想に。オレの所為だけど。

 いよいよテスト本番まで残り一日。

 昨日多少やる気を出して頑張った所為かなんとか全教科目を通す事が出来たんだけど、赤点である20点をクリアできるかというと凄く微妙だ。特に英語と数学は未だ10点の壁が高く立ちはだかって、なんともならない。

 海馬も幾ら言ってもオレが覚えられないもんだから、漸く基礎から理解させる事を諦めたらしく、何でもいいから詰め込め!と要点を指し示して記憶させる手法に切り替えた。……最初っからそうしてくれれば良かったのに、とぼやいたら「次のテストでまた最初から教えるのが面倒だ」と言い切った。

 次って事は、次も付き合ってくれる気があるって事?って聞き返したら、慌てて違う!って大騒ぎしてやんの。カワイイ奴。

 そんなこんなで海馬から要点をピックアップして無理矢理覚えさせられたオレは、海馬が作ってくれた模擬テストに真剣に取り組んでいた。その矢先に見てしまったのがこの光景だ。バサリ、と音を立てて海馬が持っていた教科書が床に落ちる。……あー本格的に寝ちゃってる。こりゃちょっとやそっとじゃ起きなさそうだ。

「………………」

 その事を知った瞬間、オレの意識は手元のプリントから目の前の海馬へと完全に移ってしまった。そういやー今週はずっとこいつと一緒にいるのになーんにもしてないんだよな。殴られたりつねられたりはしたけどよ。あ、キスはしたか、ちょっとだけ。

 そんな暇もなかったし、雰囲気でもなかったから仕方ねぇなぁとは思ってたけど、やっぱ一週間も禁欲となると健康な高校生男子としては辛いものがあるよな。しかも大ッ嫌いな勉強押し付けられてよ。全部自業自得とは言え、やってらんねぇっての。そうだろ?

 海馬にそれとなく言ってみたら「100点取ったら考えてやる」とか「プライドがあったら碌な成績もとらない内に、褒美が欲しいなどとは口が裂けても言えないよな」とか言いやがって。プライドなんてあったら最初っからお前に頼らないっつの。むかつくー。

 ……とまあ、奴があんまり偉そうに言うもんだから、この野郎居眠りこいたら襲ってやる、と密かに思ったりもしたんだけど……これってチャンスじゃね?

 何時の間にか全身の力が抜けて、くたっとした様子でソファーに横になっちゃったりして爆睡モードだ。こんな姿を見て、無視して勉強しろとか言う方が間違ってるよな。うん。間違ってる、絶対。そう思ったら最後、オレは即座にシャープペンを放り投げて、席を立つ。そして静かに海馬のいるソファーへと近づいた。

 慎重にそうっと、心地よさそうに眠っているその顔に手を伸ばす。頬を撫でる様に指先を滑らせても全く持って起きる気配がない。顔を動かしすらもしない。掌から伝わる温度が結構気持ちいい。……本当は触ってキスする位で諦めようかなーなんてちらっと思ったけど。
 

 やっぱ駄目だ。オレ、我慢の限界。ごめんなさい、海馬くん。
 

 きゅっ、と結ばれている唇にキスをする。寝ているからどこもかしこも力が入ってなくて、ちょっと舌で舐めるとすぐ開く。呼吸を邪魔しないように加減しながらあったかい口の中を堪能しつつ……寝てる人間に悪戯するって結構スリリングでいいかも、なんて思いながら、横になっている身体の下に手を差し入れて、クッションを枕に仰向けに固定すると、緩くボタンが止まっていたシャツに手を伸ばして、全部肌蹴てしまう。

 緩やかに上下する白い胸に淡いピンク色の乳首がふたっつあって、そこを舐めるのも好きなオレは、海馬が全く持ってさっぱり目を覚ます気配がないのをいい事に、口からそこに唇を落してぺろりと舐めた。あ、ちょっとびくっとした。でもまだ起きない。口の端から涎たらしちゃってエロイですよ。つかマジ寝てんの?
 

 結局、そのままオレは邪魔なズボンもさっさと脱がして、相変わらず何をしても起きなかった海馬をそのまま頂きました。
 

 え?突っ込んだら流石に起きたけどさ。起き抜けにどうこうできるもんじゃねぇから特に殴られる事もなかったぜ。尤も、後からが怖いけど。そんな事考えてもしょーがないし、やっちゃったもんは取り返しがつかないから、とりあえず最後までやった。溜まってたから調子こいて二回やった。だって一回だろうが二回だろうが怒られんの一緒だし、だったら二回やった方が断然お得だもんな。

 なんだかんだ言って海馬も途中から諦めるから結構楽だった。デカイソファーだったから落ちる心配もないし、カバーついてる奴だから汚しても問題ないしな!……ただ、落した教科書にアレがついちゃったのはまずったけど……どうすんだこの教科書……これから使うのすげぇ嫌なんだけど。
 

「き……貴様という男は……最低にも程があるぞこの駄犬がッ!!」
「いってー……蹴り落す事はないだろ!!」
「人の寝込みを襲う馬鹿は床にはいつくばっているのがお似合いだ!!そのまま死ね!!」
「なんだよー起きないお前が悪いんだろ」
「誰の所為で疲れていると思っているのだ!!今度という今度は絶対に許さんぞ!」
「いいじゃん別に、気持ち良かっただろ?眠ってるときって筋肉弛緩してるから入れやすいのな」
「そういう問題じゃないわ!しれっと何を言っている!」
「これで超やる気でた。バリバリやるぜ!」
「ふざけるな!!」
 

 なんだかんだで一時間。すっかり海馬くんを堪能して、残り少ない体力全て使ったオレは、眠気でふらふらする頭を抱えつつ、拳骨どころか足で踵落しを食らって盛大に床に転げ落ちた。そのオレにまるでマシンガンみたく罵声を浴びせまくった後、マジで怒ったらしい海馬はさっさと寝室に引っ込んで鍵をかけちまった。

 ちょ、まだ肝心のテストの答え合わせしてねぇのに!!(半分しかしてねぇけど)

 何時の間にか外は明るいしッ!!
 

 …………でもまぁ、すっきりしたしいいか、今日は。

 後一日しか時間ないけど、一夜漬けでなんとかなんだろ。死ぬ気でやればさ。