Act4 誰もが虜になるエンジェルスマイルに気をつけろ

 キャー!と黄色い声が上がり、用意されたステンレス製の枠を引き倒す勢いで集まった大勢の女性陣とそれに殆ど拮抗しそうな人数の男がステージへと殺到する。その様を同じステージ上の、こっちは奥の袖の方で、オレは心底馬鹿馬鹿しいと思いながら眺めていた。

 あーあー揃いも揃って外見に騙されやがって馬鹿じゃねぇの。そうぽつりと呟くと、隣にいたモクバが「えっらそうに。お前も同じクチじゃん」と言いながらオレを小突いた。

 ……いや!オレは外見よりもハートですから!そう慌てて反論すると「でもキースみたいにすげーゴツイ男だったり、外見が猿渡みたいだったら無理だろ?」だって。おま……そりゃ無理だけど!キースと猿渡って!対象が違い過ぎるだろ対象が!

「極端過ぎんだろ!もっとこう手近な所で例えてみろよ」
「じゃー本田」
「うわ。無理」
「即答かよ」
「だって、無理なものは無理だし」
「ハートが重要なら問題ないだろ、本田だって。持ってるもんは同じだぜ?」
「それはそうなんだけどー……ごめんなさい、嘘言いました」
「ほら見ろ。お前に人の事をとやかく言える権利なんてないんだぜぃ」
「うぅ……でもよ!オレはミーハーじゃねぇし!海馬が海馬じゃなくたって!つか、あんな暴力男、顔だけじゃ絶対無理だって!付き合えねぇよ!」
「ふーん」
「な、なんだよ」
「いっちばん最初にオレに兄サマとの事を惚気た時に、『笑顔にやられた』って言ってなかったっけ?」
「…………うっ」
「それで良く『騙されやがって』なんて言えるよねー」

 ……完敗ですモクバ様。オレが悪うございました。

 結局オレはそうモクバに頭を下げてそれ以上の追及を避ける事に成功した。
 ……くそっ、藪蛇だったぜ。

 そんなオレらのやり取りなんか全く知らずに、目の前の会場では相変わらず熱狂的なファン?の声が響いている。おいおいアイドルオンステージじゃねぇんだぞ?ただの玩具の新作発表会だぞ?何事なんだこれは。しかも当の本人は終始しかめっ面してやがるし。

 ……こう言う場で位少しは愛想良くしたらどうなのかね。まぁでも、海馬はコレを売りにしてるようなもんだし、だからこそちょっとでも笑おうもんなら普通の人間の100倍の効果がある訳だけど。その本性を知っている人間からすれば、どう好意的に見ても作戦にしか思えねぇんだよなー。それも商法の一つと言えばそれまでなんだけどさ。

 それにしてもうるせぇなー何なんだ一体。

「……そういやー今日はなんの集まり?」
「はぁ?お前、それでも本当にデュエリスト?つか、兄サマに何にも聞いてないの?!」
「……?うん」
「今日は新デュエルシステムの完成発表会。今度は車上でデュエルが出来るようになるんだぜぃ!ライディングデュエルだな!」
「……車上?!何それ、車とか、バイクとかで?」
「とりあえずはバイクかな。見た目がいいだろ?既に専用のデュエルバイクをメーカーと提携して作ってる最中なんだぜ。完成したらお前にも試乗させてやるよ」
「へー……バイクとかまた見栄えの良さそうなのモノを……で、アレか?カイバーマンの特撮ドラマでもやんのか?仮面ライダーみたいな」
「あ、それいいね!今度企画してみよっと!特撮系だと新たな客層も取り込めそうだぜぃ!」
「いやいやいや!」

 これ以上あいつに妙な真似させないでくれ!騙される人間が増えるだけだから。ほんっと詐欺だから、マジで!

 そんな事を心の底から思いながら、オレがモクバに今の企画なし!と言おうとしたその時だった。もともと煩かった会場が、殆ど絶叫に近い声で満たされる。うおっ、なんだ?!何が起こった?!と慌ててそっちを見るより早く、モクバがオレのシャツの裾を引っ張って、この騒ぎの原因を教えてくれた。

「な、なんだ?!」
「兄サマが笑ってんだよ、ほら」
「えぇ?!……う、うわ、ほんとだ!」

 その言葉が示す通り、そこにはステージ中央で仏頂面から一転、にこやかな笑顔でマイクを握り宣伝文句をすらすらと淀みなく口にしている海馬の姿。それをさらに演出するような照明が余計その笑顔を際立たせる。元が元だからまさに激変だ。ある一部の人間からはあの仏頂面こそが作戦だとか言われてるらしいけど、有り得ないから。めっちゃ素ですから!作戦っつったらまさにこの笑顔の方だろ!

「……ああぁ、これでまた……」
「ま、いーんじゃない。KC的にはどんな手段であれ売り上げが上がれば万々歳だしー」
「……流石副社長、商魂たくましい事で」
「オレだって、会社の為ならいっくらでも笑ってみせるぜぃ!」
「……そんなもんかね」
「そういうもんだよ」

 それはてめぇの笑顔に効果があるからこそ言えるセリフだよな……あーあ、イケメンって得だよなぁ。って!そういう問題じゃなくってさ!!

「いや!オレが言いたいのはそこじゃなくてっ!」
「分かってるよ城之内ィ。お前、悔しいんだろ。海馬の笑顔はオレだけのものなのにっ!って」
「へ?!」
「ま、笑顔の種類が違うから、その辺は大目に見てあげて。アレはあくまでも商売道具だから。あの笑顔になら騙されてもいい!って思わせるための作戦だからさ」
「えぇ?!」
「お前、そんな事も気づかないの?やっぱ凡骨って言われても仕方ないよな。ダメな奴」

 そんな小憎らしいセリフと共にドンッ!と強く背中を叩かれ、オレはちょっとだけ前につんのめる。何すんだよ!と言って上げた視界の先には、未だに満面の笑みを張り付けた海馬の顔があった。オレに見せてんのよりも眩しい気がするんですけど!

 ……うう、くそ。なんかムカつくぅ……っ!
 何がムカつくって、それにまた思いっきり見とれた自分にムカつく!!有り得ねぇ!!
 

「やっぱり、説得力無いぜぃ、城之内」
 

 隣でそんなこっちの様子をしっかりと見ていたモクバが肩を竦めてそんなセリフを呟いたのが聞こえたけれど、オレは結局反論する事が出来なかった。
 

 もう、何とでも言ってくれ。