Act13 張り倒す(Side.海馬)

「あー瀬人くんだぁ。元気ぃ〜?」
「……なんだこの喋るゴミは。貴様何故持って来た」
「ご、ごめん。僕もマズイかなって思ったんだけど……城之内くん、鍵落としちゃったみたいで、家に入れないんだって」
「そんな馬鹿はその辺に捨ててくればいいだろうが」
「そういう訳にはいかないよ。友達だもん」
「そもそも何故貴様はこいつがこうなっている事を知ったのだ」
「電話が掛かって来たんだ。この調子でしょ?何言ってるのかさっぱりわかんなかったんだけど、今日城之内くんがいるところだけは知ってたから……」
「良くここまで引きずって来られたな」
「あ、それはもう一人の僕のお陰」
「……貴様等は本当に馬鹿がつくほどお人よしだな」
「で、城之内くんのこと、預かってくれるよね?」
「嫌だと言っても置いていくだろうが」
「うん、勿論」
「仕方が無い。そこに投げ捨てておけ」
「だ、駄目だよ乱暴にしちゃ。せめて人間として扱ってあげて!ね?」
「フン。未成年飲酒の上に酔いつぶれる馬鹿を引取ってやるだけで有り難いと思って貰いたいものだな」
「そんな事ばっかり言って。恋人でしょ?大切にしてあげなくちゃ」
「嫌だ。そんな義理は無い」
「もー。僕帰るに帰れないじゃない」
「貴様も泊まって行けばいい。そしてこいつの面倒を見ろ」
「嫌だよ。それって僕に押し付けるって事でしょ」
「当然だ」
「だーめ。だって僕今日泊まりに行くなんて言って無いもん。もう帰らなくちゃ。それに海馬くんちに泊まったなんて言ったら杏子に何言われるかわかんないし」
「………………」
「じゃ、そういう事で。後は宜しくね、海馬くん!」

 そう言ってオレに酒臭い熱の塊を押し付けた遊戯は、そつのない笑顔を見せるとまるで逃げるようにそそくさと部屋を出て行った。

 一人残されたオレはソファーの上にだらりと転がって、オレと遊戯の会話中もしきりに何事かを呟いていたゴミ……もとい、城之内を見下ろすと、心底呆れた溜息を吐きつつその身体をとりあえず足蹴にしてみる。

 ぐい、と少し力を込めると奴は簡単にソファーから転がり落ち、特に文句も言わずに床に寝そべった。僅かに距離が離れたのにも関わらず、奴から発せられるアルコール臭が鼻に付き、酷く不快な気分になる。

 オレもこいつもこれまでの経験上酒の類は例え香りであっても苦手だった。なのにも関わらず、ここまで酔わされたという事は多分自らの意思で煽ったのではないのだろう。

 幸いな事に奴は父親に似る事はなく、酔っても多少妙なテンションになる位で特に暴れたりする事は無い様だった。ただし、酒癖のいい方ではなく、暴れはしないが絡んでは来る。それがオレにとってはとてつもなく鬱陶しく、やっかいなのだ。

「瀬人くん酷いっ!どーしてオレの事蹴ったりするの!」
「やかましいわこの酔っ払い!黙って寝てろ!隣へ行け!」
「やだ。眠く無いもん」
「では寝なくていいから黙ってろ」
「えー暇だしー。遊ぼうよー」
「鬱陶しい!触るな!!酒臭いわ!」
「痛いって。蹴らないでよ!」
「その気色悪い言葉遣いをやめろ!」

 駄目だこの酔っ払い。無視を決め込めば決め込むほど絡んでくる。暫く安定しない身体を持て余しつつ、床に這い蹲っていた城之内だったが、オレから蹴られるのが相当お気に召さなかったらしく、生意気にも顔を顰めて今度は人の膝に縋りついてくる。妙に湿っぽい息や必要以上に熱い身体が心底不快で、オレは奴を退けようと躍起になった。ああもう膝を掴むな頬を擦りつけるなニヤニヤするな、気持ち悪い!怖気が走る!!

 ……そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。というか既に切れ掛かっているけどな!相手が酔っ払いであろうがなかろうが関係あるか!嫌なものは嫌だ!

「なぁなぁ瀬人ちゃん」
「……貴様、本当にいい加減にしないと張り倒すぞ。オレは酔っ払いは死ぬほど嫌いなんだ。分かるかこの意味が」
「わっかりーませーん」
「ならば死ね!」

 いい加減頭に来たオレは、これ以上この馬鹿の相手をしている義理はないと、未だぐだぐだと人に纏わりついてくる城之内の首根っこを引っ掴むと、隣の寝室へと軟禁する為にズルズルと引きずって歩き出す。痛いだの苦しいだの騒いでいるが知った事か。酔いが醒めるまで出てくるな。後は知らん!

 が、酔っていてもまだ身体に力は入るのか、微妙な抵抗をしてきて中々先に進めない。それに更に苛立ちを募らせたオレは、奴の襟を掴む指先に力を込めて思い切り引き上げた。その時だった。

「このやろ。セクハラしてやる!」

 呂律の回らない口でそう一言宣伝した奴は、それまで散々暴れていた手であろう事か人の尻を思いっきり撫で回した。
 

 瞬間オレの頭の中でブチッ、と大きな音がする。
 

「死ねこの馬鹿がぁ!!」

 それからコンマ0.2秒後、オレは強引に奴を立ち上がらせた手をそのままにドアノブを掴もうとした右手を思い切り翻すと、渾身の力を込めてこの酔っ払いを張り倒した。

 刹那派手な音を立てて床に無様に転がった身体を今度は自分でも見事だと思う一本背負いでベッドへと投げ捨てた。高級マットレスのスプリングが大きく弾んで向こう側に落ちたようだが、拾い上げてやる気はなかった。そのままさっさと鍵をかける。我が家の空調は完璧故に風邪を引く事もないだろう。後は知らん。明日の朝までそこで伸びているがいい。

 幸いな事に奴はそれから起きる事もなく、オレが鍵を開けてやった翌朝まで床の上で熟睡していたらしい。阿呆め。
 

「……なぁ、なんか頭よりも顔と身体が痛ぇんだけど……オレ、ここに来た時既にボロボロになってた?」
「さぁ。オレは知らん」
「おっかしーなー。酔って殴りあいでもやったかな?」
 

 次の日の朝、あちこち摩りながら首を捻りつつ起き出して来た城之内に、オレは新聞を読みながら思い切りシラを切ってやった。

 その後遊戯から事情を聞いたらしく猛然と抗議をして来たが、全て綺麗サッパリ無視をした。
 

 ……オレは悪くない。絶対に。