Act5 むりにいうことをきかせようとしてはいけません

 その日、オレは朝から最高潮にブルーだった。寝不足だし、疲れているし、凹んでるし、なんつーかもうこの世の終わり状態。それを取り繕う気力もなく教室に入ったきり机の上に顔を突っ伏して沈黙してると、案の定オレの異変を察知した本田と遊戯が「どうした?」と声をかけて来た。

「おう、城之内。お前朝から撃沈とかどうした?なんかあったか?」
「……まぁ、色々と」
「ちょっと顔色悪いみたいだけど大丈夫?保健室行ったら?」
「そこまでじゃねぇよ。単に寝不足なだけ」
「寝不足ねぇ。お前の事だから昨晩つい頑張っちゃいました、なアレだろどうせ。その割にはお肌の艶が宜しくないみたいですけど?」
「うるせぇ」
「違うのかよ」
「ノーコメント」
「まぁそう言わずに」
「うるせぇっつってんだろ。ほっとけよ!」
「じょ、城之内くん」
「都合が悪くなるとすぐコレだもんな。成長しねぇよな、お前。そういうトコ、お前のハニーにそっくりだぜ」

 まぁ、あっちの迫力とは段違いだけど?

 そう言ってニヤニヤ笑いながら更にオレに近づいた本田は、多分嫌がらせの為か机の空いたスペースにケツ乗っけてオレの頭をぐちゃぐちゃにかき回してくる。うぜぇ!!なんだこいつ!むかつく!即座に沸騰した頭をガバリと上げて、オレは力任せに目の前の身体を思いっきり弾き飛ばす。けど、そんな事は既に予想済みの本田は「おっと」なんて軽く言いながら難なく床の上に着地した。そしてますますオレを見下してくる(視点的な意味で)

 その視線を殆どガン飛ばす様な目つきで見返しながら、オレは追加攻撃でもう一発殴ってやろうかと腰を浮かしかけた。が、すぐにその動きは止まってしまう。何故なら身体のあらぬところに鋭い痛みが走ったからだ。

「……っく!いってー!」
「城之内くんどうしたの?!」
「なんだ?どした?怪我でもしてんのか?」

 思わずバタッと机の上に倒れて悶絶していると、吃驚したらしい二人が慌てて顔を覗き込んでくる。オレは直ぐに「何でもない大丈夫だ」と言おうとしたけれど、ぶっちゃけ大丈夫じゃなかったから言葉すら出て来なかった。これは酷い。

「おい、マジかよ」
「保健室に連れて行った方がいいかなぁ」
「やーでも何が悪いんだか分からねぇと駄目じゃね?おーい、城之内くーん。生きてますかー?外ですか?中ですか?どこですか?」
「……本田てめぇ、面白がってるだろ!」
「いんや、半分マジ。だから早く言えよ。保健室行くか?歩けねぇならおぶってやるけど」
「い、いい……」
「でも、痛いんでしょ?先生に診て貰った方がいいよ」
「や!診て貰えないし!」
「何でだよ」
「……何でって……」
 

 ……こんなん保健の先生に診せたらヤバイし!つか無理だし!

 ……だって、だってさ……オレが痛がってる場所って……!
 

「……場所が問題だからだよ」
「はぁ?場所?」
「先生に見せられない場所なんてあるの?」
「いや、その……」
「なーに女みてぇな事言ってんだお前。もしかして首の所にキスマークがあるから服脱げませんとか、そう言うんじゃねぇだろうな」
「それもあるけど、そうじゃなくて」
「じゃーなんだよ。ケツに蒙古半があるからパンツ脱げません?」
「だああ!んなもんねーよ!!」
「……あ、反応するのそっちかよ。パンツじゃねぇのか」
「………………」
「なんでいきなり黙んだよ。気持ち悪ぃなぁ。もうはっきり言っちまえよ。どこがどうしたって?」

 自分でも歯切れが悪ぃな、と思う答えの返し方にいい加減本田がキレかけたから、オレはついに観念した。どうせ黙ってたって追及されるのは目に見えてるし、変に誤解されても嫌だったし。互いの夜事情をあけすけに話したり、一緒にAV見て抜く仲だ!今更ドン引きも何もねぇ!でも、流石に『コレ』を他人に言うのは勇気がいる。だって余りにも間抜けすぎる!

「おい城之内」
「……え、と……オトコノコの一番大事な所です」
「はい?!」
「ええ?!」
「だから!!(自主規制)が痛いっつってんだよ馬鹿!分かれよ!!」

 こんなにはっきり言ってやってるのに(いや、言ったからか?)、全く持って察しが悪い二人に再度指まで指しながら教えてやる。そ、そしたらこいつら、瞬時に顔を見合せて「ぶっ!」と噴き出した後、大爆笑しやがった。

 ひでぇ!だから言いたくなかったのに!!

「おま、なんだそれ!!どっかに挟んだのか?!死ぬっ!ウケるっ!!」
「ご、ごめん。わ、笑っちゃいけないけど、ちょっと無理だよ城之内くんっ!」
「お前等ー!!!」
「ぶはっ、ひーおかしい!いやいや、それは災難だった事で。使い物にならない城之内くんに海馬くんもさぞお怒りでしょうなーうははははは!」
「か、海馬くんには、ちゃんと言ったの?それっ」
「あーもう!笑うのやめろ!ちげぇよ!挟んだとか、ナニしたとかそう言うんじゃねぇんだよ!」
「じゃ、じゃー何したんだよ?海馬に噛まれたか?」
「………………」
「えっ、そうなの?!」
「マジかよ?!」
「……そうです」
「む、無理矢理させようとしたんでしょ、城之内くんっ!!」
「マジか!!!ぎゃはははははは!!か、海馬にフェラ強要して噛まれるとかッ!!ちょ、もう、ダメだっ!!笑い死ぬっ!!助けてくれっ!」
「あーもーうるせぇ!!」

 オレの答えが相当ツボにハマったらしい二人はそれから鬼の様に笑い転げた。あああもう〜むかつくっ!!でもオレが人から同じ話を聞いたら絶対笑い死ぬだろうからこいつ等を責めるに責められない。だよな、相手にナニ噛まれるとか確かに大爆笑だよな。ネタとしては最高だぜ!ネタとしてはな!だけど、
 

 マジでやる奴がいるかよ海馬ァ!!
 

「ま、まぁ、なんだ。城之内くん?君は相手が猛獣だって事を忘れちゃいけないよ。今回は噛まれた位で済んだけどよ、次は噛み切られっかもな!」
「そうだよ城之内くん。海馬くんは怖いんだよ?」
「……分かってるよッ!」
「反省するこったな。どっちにしても当分はデキないだろうけど?」
「やっぱり保健室に行った方がいいんじゃない?」
「行けるかぁッ!!」

 オレのその一言に、二人は一旦収めた笑いを再び爆発させて涙を流しながら笑っていた。なんつー友達甲斐のない奴らだ。最悪だ。でも、オレがやった事も多分最悪だったろうから、まぁ、その辺は深く反省する事にする。やっぱ無理やり口に突っ込んだのはマズかったよな。うん。
 

 その後一週間位物理的な問題で禁欲生活が続いたオレが、復活した途端同じ事をやったのは言うまでもない。