Act7 きちんとききかんりをしましょう

「だー!!ちょっと待った!お前っ!着替えるなら中に入れっ!」
「ちょ、何をする凡骨ッ!」
「何をするじゃねぇっての!人前で脱ぐなっつってんだよ!」
「はぁ?!コートを脱ぐだけだろうがッ!」
「そういう問題じゃねぇ!いいから言う事を聞けッ!」

 言いながらオレは隣にいた海馬を無理矢理試着室に押し込んで、銀色のカーテンを速攻閉めた。その後で肝心の服を手渡すのを忘れたと、隙間からそれごと勢い良く腕を突っ込む。案の定散々中から文句が聞こえた上に手の甲を思い切り抓られたけど、反省はしていない。

 だって、だってよ。お前、ニブいんだもん。オレが気をつけてやんないと凄い事になりそうで。

 現に今だって周囲にいる野郎やその彼女、店員の果てまでがじっとこっちを凝視している。オレ等が試着うんぬんで揉めたからじゃねぇ。海馬(とオレ。オレはおまけだけど)がここに来た時からずーっとだ。要するに背がえっらく高くてスタイルもいいイケメンが颯爽と登場したもんだから目の保養とばかりに注目してんだよな。海馬だっつーのはバレてねぇみたいだけど、まぁ奴の場合そのステイタスは余り関係ない。

 そんな他人の羨望だったり嫉妬だったり好奇の目だったりを容赦なく浴びてるのにも関わらず、海馬くんは至ってマイペース。試着の為とはいえ徐にコートを脱ごうとするもんだから慌ててそれを阻止したって訳。

 まーそりゃそうだよなーちょっと注目浴びただけで腰が引けるようじゃー大会社の社長なんてやってらんねぇよな。でもよ!やっぱ仕事とプライベートは分けるべきだと思う訳。つか、気が気じゃないし、オレが!大体気分良くないだろ、自分の連れがジロジロ見られるのってさ。

 しっかし自分の事をよく分かって無いって問題だよなー。あー疲れる。尤も、デートに誘ったのはオレなんだけど。基本的に生活時間帯がぜんっぜん合わないから、会うにしたって学校や互いの家ばっかでつまんねぇ。だからたまの休日にはこーして外に出たいと思ったまでは良かったんだけど……実際出てみると大変で。……うーん、なかなか難しい。

「おい、凡骨」
「うん?着替え終わった?どれどれ……って、あだっ!」
「何故貴様が首を突っ込むのだ!」
「だーからーお前の姿晒したくないんだって!」
「貴様……失礼な事を言うな!オレなどより貴様の方がよっぽどみすぼらしいわ!」
「そういう意味じゃねぇっての!黙って言う事聞けよ!」
「誰が聞くか!!」

 数分後、中でごそごそやってた海馬が着替え終わったのか、カーテン越しに声をかけて来たから、オレは早速端っこを捲って顔を突っ込んだら、すかさず手刀をお見舞いされた。だってお前、カーテン引いたら丸見えになるじゃねーか、空気読めよその位。その後交わした会話から海馬がすんごい誤解をしてる事が分かったけれど、説明するのも面倒だから無理矢理押し切ろうとした……けど、無理だった。

「お、結構似合うじゃん。それで決定」
「貴様、適当な事を言ってるんじゃないだろうな」
「そんな事無いって。もう最高!」
「………………」
「ささ、とりあえず次行きましょ、次」

 周囲の目を気にするが余り、つい受け答えがぞんざいになっちまって、海馬くんのご不興をこれでもかと買ったけれど、その辺はまぁしょうがない。さっさと服を戻して貰ってコートも着せて、きっちり前まで閉めようとしたら拒否られた。だーかーらーさー!

「触るな貴様!鬱陶しいわ!」
「だってお前分かってねぇんだもん!ペットの管理は主人の役目!可愛い子ほど人目に晒すなってゆーの常識だろ!」
「ふざけるなよ。訳の分からん事を言うな!」
「訳分かるって!周り見てみ?」
「周り?……見たがどうした」
「見られてるだろ?」
「そうか?」
「そうだよ!」
「……まぁ、仮に見られてるとして何か問題があるのか?」
「や、問題がって。嫌じゃんか」
「別に」
「お前だってオレが変な目でジロジロ見られたら嫌だろ?」
「別に。貴様が誰にどう見られようが全ッ然関係ないわ。他人の振りをすればいいだけの話だ」
「うえぇ?!」
「貴様もそうすればいいだろうが。嫌なら近づくな」

 そう言って、海馬は相変わらず集中している周囲の視線を振りきる様にコートの裾を翻しつつ、さっさと一人先に行ってしまう。……ちょっともう全然分かって無いよこの人!そういう意味じゃねぇんだってば!!あーもう面倒くせぇなぁ!

 そんなオレの気持ちなんか露知らず、行く先々で人々の眼は愚か、違う所まで刺激して歩く海馬にオレは溜息を零しまくりながら慌てて後を追いかけて行った。

 うーんこれはマジで再教育が必要だ。それと、海馬くんの危機管理マニュアルも。
 

 今度、モクバと一緒に真剣に検討してみようと思う。
 何か、コトが起らない内に。