Act8 お前は少し黙っててくれ……

「大体貴様は学習しない。だから馬鹿だと言われるのだ」
「あーうん。お言葉いちいちご尤もです。ってか説教やめて」
「説教されたくないなら報告するな。オレの耳に入らないようにしろ」
「それも気を付けます。だから……」
「以前も同じ事を言っただろうが。何回、繰り返せば気が済むのだ」
「だーかーらー!よーく分かったっつーの!頼むから少し黙ってくれ!今ヤッてる最中だろ?!」

 そうオレが叫んでも全く持ってどこ吹く風の海馬くんはケロッとした顔でやっぱり景気良く口を動かしてる。……あの、ですね。こういう話は普通セックスの最中にする事じゃないと思うんですよ。しかも貴方、入れた後ならまだしも直前にそれを言う?超冷めるんですけど。つかマジ萎える。

 オレの心も身体も物凄く正直だから、萎えるって思った瞬間に速攻萎えてしまう。うあぁ、と思わず上げた声に海馬は思いっきり眉を寄せてオレを見て、それからナニか悟ったのかちらっと視線を下に向けて、今度は半端無い非難の眼差しを向けて来た。

 いや、こうなったのお前の所為だし!オレ悪くないし!

「……そんな顔して睨まれてもさぁ。しょーがないじゃん。誰の所為だよ」
「貴様の所為に決まってるだろうが」
「いや!絶対オレの所為じゃねぇし!大体さ、お前煩さ過ぎ!セックスの時位黙れ馬鹿!つか一回でいいから可愛く喘いでみやがれ!」
「誰が」
「お前がだよ!」
「気色悪い。女ではあるまいし」
「……それ、女とか男とか関係ある?」
「あるだろう?貴様、そんな不気味なものが聞きたいのか」
「不気味って……」
「オレは死んでも聞きたくないが。変態か貴様」
「おま……根本から否定するなよ。ヤってる癖にそういう事言う?」
「貴様がヤりたいと言うからヤらせてやってるんだろうが。これ以上何を要求する」
「そ、そう言われると……辛いんですけど。でもオレはやっぱムードとか、そういうのを重要視したいんです」
「ふん、嫌なら他を当たれ」
「…………あーもー…………勘弁して……」

 唇から零れ落ちる溜息と共にがっくりと肩を落としたオレは、そのままへなへなと力を入れて身体を支えていた両腕の力を抜いて、海馬の上に投げやりに身体を倒してしまう。途端に「重い」と文句が出たけど、うるせぇって撥ね付けた。

 何が悲しくてお互い素っ裸で熱烈に抱き合ってる状況で、こんな話をしなきゃならないんでしょうか。これが普通に部屋で海馬が仕事をしてて、オレがソファーでダラダラしてる時なら何とも思わねーよ?でも、でもさ、今は恋人同士の愛のコミュニケーションをしてる時でしょーが!何もこの時に言わなくてもいいと思わねぇ?!しかも急に思い出してさ!これでオレが萎えて批難されるって絶対おかしいと思うんだけど!

 ……まぁ、いつもの事なんですけどね。これが『いつも』って事が問題な訳で。

「勃たないなら、勃たせてやろうか?」
「どうやって。フェラでもしてくれんの?」
「ふざけるな。それ以外にも方法は幾らでもあるだろうが。例えば……」
「直接攻撃とか、ケツに指突っ込むとかはやめて下さいね。マジで」
「自分は平気でやっておいて、オレにはするなと言うのか」
「う……そ、それは、だってお前役割っつーもんがあるじゃん!」
「貴様が勝手に決めたんだろうが」
「オレ相手じゃ勃たないって言った癖に!」
「当然だ。オレは変態ではない」
「偉そうに言うな!もういい、やめる!お前、一人でマスかいとけ!」
「ほう。やめるんだな」
「ああ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて『ここで』そうさせて貰おうか。貴様、『絶対』に手出しをするなよ。したら殺す」
「誰がする……うぇ?!ここで?!」
「そうだが何か?貴様がしろと言ったんだろうが」

 いつの間にか売り言葉に買い言葉で変な方向に向かってしまった話にオレはがばりと上半身を持ち上げて、何故か得意そうに笑っている海馬の顔を凝視した。えーと、こいつ今何ってった?ここで一人でマスかいとけって言ったオレの言葉に二つ返事で頷いてなかったか?そんでそんで、それを見ても邪魔するなって?え?
 

 どう考えても無理じゃん?海馬くんのオナニーショーみて手を出すなとか、絶対無理だって!
 

 海馬のニヤリ笑いを眺めながら、オレがうっかりその様子を想像しちまったその時だった。ゲンキンにもオレの息子さんはその妄想だけですっかり元気に……余りにも情けない話だけど、なって、しまったらしい。それを視覚ではなく触覚で感じたらしい海馬は、計画通り!という顔でわはは!と声高らかに笑いだす。

「……うわ、やば……!」
「ふん、他愛も無いな。さすがは変態。妄想だけでこうなるとは」
「い、言うな馬鹿!折角勃ったんだから、もう何も言わないで、お願い!」
「やめるんじゃなかったのか?」
「前言撤回します。入れさせて下さい」
「嫌だと言ったら?」
「無理矢理入れる」
「最悪だな。下劣極まりない」
「そういう奴に惚れこまれた方が悪い。いいからもう黙っとけ、な?」
「煩かったら塞げばいいだけの話だろうが。貴様は本当に脳が足りない馬鹿犬だな」

 そう言ってどこまでも偉そうなオレの恋人様は、オレにさせるまでもなく自分から手を伸ばしてオレの頭を抱え込むと、最初っから舌を入れる気満々の、物凄くやらしいキスを仕かけて来た。

 なんだよ、キスして欲しかったのなら素直にそういえばいいじゃん。遠回しな奴。全く訳分かんねぇな。

 まぁ、でも。そういう所がたまらないんだけど。

 何だかんだと煩くても、こんな時までやけに男らしくてもやっぱり可愛いと思えるその身体を抱き締めて、オレはもう何も言わずに奴の足を抱え上げた。可愛く喘いで欲しいけど、本人にその気がないのなら仕方がない。オレが強引に、そうなる様に仕向けるまでだ。そして海馬もそれを望んでる。よーし、今日は頑張っちゃうもんね!
 

 ……その結果がどうなったかはここでは敢えて言わない事にするけれど。
 
 次の日、海馬はモクバに風邪と間違えられた事だけは、こっそりと教えておくな。