Act8 お前何様だ!

『城之内!お前兄サマに何吹き込んだんだよッ!』
「へぁっ?」
『オレ、ちょっと困ったんだからな!』
「や、そう最初から突っ走られても事態が飲み込めないんだけど……何?」
『何、じゃねーよ!今日兄サマが急にスケジュールを調整したいって言うから理由聞いたら……デートするんだって?しかもフルコース!』
「……ゲッ。早速チクられた」
『チクられたじゃないだろ!この間言ったじゃん』
「そ、そりゃー聞いたけど……モクバには言うなってちゃんと言ったんだぜ?」
『デートの事は言うなって言われてないって』
「そんな細かく指定しなきゃ駄目なのかよ?!」
『オレに言うなよ。っていうかそんな事はどうでもいいんだよ!』
「……そんな事って言うと……本題が別にある訳ですね」
『オレだってデート位なら別にとやかく言わないぜぃ。問題は……』
「分かった。皆まで言うな。お前、海馬に聞かれたろ?」
『何をだよ』
「何って……保健体育系のアレ」
『……うん。バッチリね』

 あああああ、やっぱりィ!!

 携帯から聞こえてくるモクバの声が途端にドスが効いてきたと思ったら……お約束の展開にオレは思いっきり布団の上でのけぞった。今日は夕方からのハードなバイトに心底疲れ果てて、帰って来てから風呂も入らずに布団に入って爆睡した。その矢先に掛って来た電話だったから最初は殆ど眠っていて朦朧としていた意識が急激に覚醒する。

 ちなみに現在は午後11時。海馬と例の話をしたその日の夜だ。まー遅かれ早かれモクバにこの話は伝わるんだろうなーとは思ってたけど、早っ!マジ早っ!!速攻かよ?!だから弟に聞くなっつったのに!完全に怒ってるじゃんモクバ!……いや、教えてやらなかったオレも悪いんだけど。それでも、なぁ?!

「で、どう答えたんだよ。まさか教えてやったのか?」
『小学生のオレが?高校生の兄サマに?冗談言わないでよ』
「……ですよねー」
『でも兄サマ、オレからも駄目となると、メイドとかに聞いちゃう可能性があるから困ってるんだ。知らない事を知らないままにしとくの嫌いだからさぁ』
「メイド!?それは不味いって!!羞恥プレイか!」
『だから困ってるって言ってんだろ!もうっ、お前が具体的な事言うから!』
「だ、だって、そういうのちゃんとしとかねぇと不味いじゃん、やっぱ」
『不味いと思うならするなよ!』
「無茶言うな!」

 この健全な男子高校生を捕まえて好きな奴とセックスするなって?!冗談言うな!

 そう勢い込んで叫んだら、モクバに「男同士でする事じゃないだろっ!」って怒られた。そりゃ尤もだけど、したいもんはしたいんだからしょうがない。て言うか問題はそこじゃないし。

「なぁ、なんでお前の兄サマ、あんななの?」
『はぁ?』
「今時子供がどうやって出来るか知らない高校生がいるなんて考えられないんだけど」
『兄サマには必要のない情報だったからじゃないの?科学とか経済とか、そういう分野ではエキスパートだけど、その代わりに俗世間的な一般常識をどっかに置いて来ちゃってるから』
「……あぁ、やっぱり」
『だからお前と付き合うのはそういう意味でいいかなーってオレも思ってんだ。お前なんて俗物代表じゃん。男っていうのがアレだけどさ』
「失礼な事言うなよな!」
『まあ、それは嘘だけど。兄サマも実際そういう意味でOKしたんだろうし』
「……うー、なんか複雑なんだけど。それってオレが好きとかそういうの関係ないって事じゃん」
『そんな事ないよ。兄サマは人の好き嫌い、すっごく激しいしね。本当に嫌なら傍にも近寄らないよ。その兄サマが興味を持ったって事は自信を持っていいぜぃ』
「ホントかぁ?……まぁ、キスしても嫌がられなかったけど……」
『城之内ッ!』
「はっ!ご、ごめんなさいッ!とにかく、メイドさんに対する羞恥プレイだけは阻止してやってくれよ。それ、立派なセクハラだろ?気の毒過ぎる」
『うーん。セクハラだよねぇ。ま、うちのメイド達は面白がりだから丁寧に教えてくれちゃいそうだけどさ』
「……ちょっ」
『聞いた後に兄サマがどう出るかの方が問題だよねー』

 そりゃそーだ。とオレはそこで深く頷いた。だって、今までは知らなかったからこそ何でも言いなりになってたみてぇだけど、具体的な事を知っちまったら今度こそ引くかも知れねぇもんな。オレのアレを海馬のあそこに突っ込むとか……うわぁ、やっぱ言葉にするとなんかハズい。ヤバイ。やっぱ口では説明できないマジで。

「……引くよな、多分」
『兄サマが引くって事今まで無かったから想像出来ないけど……オレが兄サマだったら引くかも』
「やっぱり」
『オレさ、兄サマにソレを聞かれた時に「ネットで調べれば?」って言おうと思ったんだ』
「あ、そうか、その手もあったな」
『でもさ、ネットで変に検索したら凄いじゃん。オレが怒られそうだよ』
「……ああ、うん」
『ちなみに、引かれたらどうすんだよ』
「えっ、どうするって?」
『諦めんのかよ』
「………………」

 海馬に引かれたら、かぁ。そりゃーちょっとショックだけど、そんなん最初から分かってる事だし素直に諦め……いやいやいや、ないな。それはない。だってもうキスまでしちまったし。オレ、キスした相手とは必ず最後までヤッてっし。そう言う意味ではもうサレンダー出来ない。うん、無理。

「無理だな」
『無理なのかよ』
「うん、無理。お前だってさ、好きな子が出来てその子と結構イイ感じになったのに、エッチしようと思ったらドン引かれた場合、どうする?諦めんのか?」
『うーん……オレはまだそーゆー経験ないけど……もしそうなったら考えちゃうなぁ』
「だろ?!」
『でもそれは相手によるじゃんか。あ、でも兄サマ相手だったら無理かもな』
「だよなー……って、えぇ?!お前まさかっ」
『何焦ってんだよ。変な誤解すんなよな』
「だ、だって、そう言えばお前ら一緒に寝てるって言うし!」
『そりゃ一緒に寝てるけど別に兄サマをどうこうしようなんて思った事もないぜぃ』
「……良かったー」
『……普通だし!でも、そういう疑いかけられちゃうんじゃー考えちゃうよなぁ。オレが先に実践で教えちゃおうか?』
「そ、それだけは勘弁して下さい。お兄さんの処女をオレに下さい!」
『……それ、すっごく微妙』
「オレも今そう思った」
『ほんっと馬鹿だなーお前って』
「馬鹿って言うな!お前何様だ!」
『弟サマだぜぃ!』
「あっそ」

 んでも、なんだかんだ言って止めろとか言わないんだよなーコイツ。さすが天下の海馬コーポレーションの副社長、世間ズレしてるっていうか、懐がデカいっていうか……海馬の事言えねーよなー。やっぱおかしいわ、この兄弟。……尤も、それに惚れてるオレが一番おかしい訳だけどさ。

『とりあえずさ、上手くごまかしておくから、手早く進めちゃってよ』
「そんなんでいいのか。お前、投げやりになってねぇ?」
『だって遅かれ早かれそうなるんなら何時だって一緒じゃん』
「そういうもんかね」
『そう言うもんだよ。ま、頑張れば』

 兄サマの事だから一筋縄では絶対行かないと思うけどね。

 そんな有り難くも無い進言を最後に放って、モクバはかけてきた時と全く同じく、唐突に通話を切った。なんだよその上から目線。全く教育がなっちゃいねーな!

 ともあれ、一応応援?されてるみてぇだから、ここは一つ頑張りますか!

 ……海馬がその前にメイドさんに無意識セクハラしませんように。