Act9 今の突っ込みどころがわかんねーよ!

「だから、……が、……して、……なるんだよ。ほら、ここに書いてあるじゃん」
「なるほど」
「でね、それは一般的には口に出しづらい事だから、あんまり大声で言っちゃいけないんだよ。悪い事じゃないんだけど、恥ずかしいっていうか……分かる?」
「まぁ、何となく」
「海馬くんだって、……の前で……になったら恥ずかしいでしょ。そういう事だよ」
「余り気にした事も考えた事もないから分からんが、そうだろうな」
「そっかー。感覚が違うとなかなか難しいよねー」
「貴様はどうなのだ」
「僕?僕は普通以上に恥ずかしいよ!あんまり男らしくないし」
「可愛らしいと思うが」
「君、モクバくんとおんなじ目で僕の事見てるでしょ。あのね、モクバくんは小学生。僕は高校生。全然違うんだからねッ」
「そうか」
「そうですっ」

 そう言ってふくれっ面をして見せる遊戯の顔は、どうみてもオレ等といるよりモクバ位のガキと一緒にいた方が自然に見えるぜ、なーんて言葉を目の前の一種異様な光景を少し離れた場所で見ていたオレはつい声に出しちまいそうになって慌てて喉奥に引っ込めた。

 奴の隣に座って結構楽しそうな表情でその顔を見下ろしてる海馬も多分同意見だと思う。だって口元が超笑ってる。なんだか凄く楽しそうだな、オイ。これじゃオレの立場ねーじゃん。そう内心ぼやくオレの気持ちなんて目の前で一冊の本を間に挟んで談笑を続ける奴等の意識の片隅にも多分存在しちゃいない。なんだかちょっぴり、いや、とっても寂しいんですけど。

 土曜日の放課後の所為か普段よりも若干人気の少ない……つーか誰もいない図書館で、オレ達……というか海馬と遊戯とその他一名は、室内でも一番隅っこにある広いテーブル群の片隅を陣取ってとある本を使って真剣に『授業』をしている最中だった。ちなみにそれを提案したのはオレでも海馬でもなく、遊戯だった。

 モクバと連絡を取った次の日の昼休み。弁当を食いながらなんとなく海馬の話題になって「その後どう?」と遊戯から聞かれた時に、海馬の保健体育の知識が全くと言っていいほど乏しい。だからと言ってオレの口からいうのはなんとなく居た堪れない。けど、そうしないとアイツは周囲の人間に絶対聞きまくるし……と言う愚痴をこぼしたら、「じゃあ僕がその役を請け負うよ!」と何故か嬉しそうに買って出てくれたとそういう訳だ。

 ……それにしても、やっぱり異様だ。異様すぎる。

 遊戯の話を終始真面目に聞いていた海馬は、おおよその事をすぐに理解したみたいだった。……意味分かったらコイツ引くんじゃねぇの?というオレやモクバの不安をよそにその表情は相変わらず淡々としている。

 この問題は実はここからだ。遊戯は「その点も僕に任せてよ!」なーんて言ってたけど、どうにも信用ならねぇ。つかお前アレをどうやって説明するつもりなんだよ?

「……で、理解は出来たのかよ?海馬くん?」

 遊戯が海馬に個人授業を始めてから30分程経過した頃。最初の真剣さはどこへやら、傍からみたらただイチャついているだけにしか見えない二人を非常に面白くなく眺めていたオレは、いい加減痺れを切らしてぶっきらぼうにそんな言葉を投げてみた。

 すると奴等は「あ、そういえばいたんだっけ?」みたいな表情をしつつも顔を上げ、遊戯は海馬を、海馬はオレを見て「大体は」と答えて来た。

「ホントかぁ?じゃあ、オレがやりたい事、分かっただろ」
「それは分かったのだが。何故貴様はこれがやりたいのだ?」
「…………はぁ?え?そこに戻っちゃうの?!いや、つーか、好きだから……って言ってるだろ最初から!付き合うっつー事はそういうのも込みな訳!!つかむしろオレ的にはそれメイン!」
「……城之内くんってそういう人だったんだ……」
「そこで突っ込み入れんなよ遊戯。男なら大抵そうだろ。むしろそれが男だろ?!」
「僕は違うけど」
「オレも違うな」
「お前等基準で話したくねぇ!!オレはそうなの!だから覚悟しろっつってんだろ!遊戯もグダグダやってねーで一発キメちまえよ!」
「自分がやってから言ってよね。僕は僕のペースがあるんです」
「……へー。言うじゃねぇか」
「貴様らオレを置いて喧嘩をするな。意味がわからん」
「城之内くんは海馬くんの事が好きだからエッチしたいんだって。普通、世間一般では告白されたら付き合って、恋人になったらエッチするっていうのは自然の流れだよ。あ、エッチってこれの事ね。これ」

 とんとん、と広げていた本の一番キワドイ絵を指先で叩いて、遊戯がそう海馬に言い聞かせる。……まぁ教育本だから絵がお堅いのはアレだけど、なんつーかこう、違うっつーかズレてるよなぁ。むしろエロ本見せた方が分かるんじゃねぇ?海馬の事だから興奮とか一切しないでガン見しそうだけど。あ、それはそれで見てみたい。

 そんな遊戯の解釈に海馬はもう一度だけそれを見て、再度オレの顔を見あげると何とも言えない微妙な顔をした。お、やっぱり引いたか?今度こそ引いたか?だからオレは始めっからそう言ってるじゃねぇか。分かってないお前が悪いんだって!

 と、追加攻撃を仕かけるために口を開いたその時だった。

 海馬が、更にオレを脱力させる有り得ない一言を口にしたのは。

「しかし、オレは男だが?貴様まさかオレに子供を産ませようと思ってるんじゃないだろうな」
 

 ………………。

 ………………。

 ……泣いていいですか?
 

「ちょ…………はぁ?!つーか……えぇ?!今の突っ込みどころがあり過ぎて逆にどう突っ込んだらいいか分かんねーよ!!おま、だれが……お前だけには『まさか』って言われたくねぇ!!」
「違うよ海馬くん、城之内くんは子供が作りたいんじゃなくってただエッチしたいって言ってるんだよ。大体海馬くんは男だから赤ちゃん産めないよ?」
「そこっ!冷静に解説しない!!」
「何故だ?子供を作る行為だと書いてあるだろうが」
「そうなんだけど、そうじゃないんだよ」
「じゃあ、どういう意味だ」
「振り出しに戻ってるじゃねーかよ!!おい遊戯!ちゃんと説明しろよ!」
「ちゃんと説明したんだけどなぁ。使う所が違うって教えたんだけど……」
「……すっげー生々しいけどその通りです!」
「ああ、そんな事も言っていたな」
「聞いてたのかよ?!じゃあ分かるよな?!」

 ここまで言って分からなかったら、オレ、こいつの事バカ認定する。全国模試で一位だろうが、ソリットヴィジョンを開発した超天才だろうが関係ねぇ。バカはバカだ。しかも超ド級のな!ああなんだってこんな奴に惚れたんだろうオレ、あ、バカだからか。……お互い様だな!

 そんなオレの心の嵐なんて全くもって知る由も無い海馬は、いつの間にか思いっきり身を乗り出していたオレの頭を鬱陶しそうに避けながら、いかにも嫌そうな顔でこう言った。
 

「意味も無いのにそんな事をしたがるとは……貴様、変態か」
 

 …………なんかもういいやって気分になりました。
 

 つーか、この一言に遊戯のフォローが一切なかった訳だけど。

 それってどういう事ですか?