Act3 初エッチは大安に

「んーじゃあさぁ。明後日は?」
「駄目だ。危険日だ」
「そっかーじゃあ週末!」
「仕事が入っていなければまぁ大丈夫だろう」
「じゃ、土曜日にしようぜ。日曜日バイト休みだから」
「了解した」
「よーっし!じゃあその日の為に勉強すっかなー!おい本田!ボッキンの最新巻買っただろ?!ちょっと貸してくれよ!」
「最新はSM特集だぞ城之内。お前、イキナリSMからすんのかよ」
「SMかーちょっとなぁ。どうよ海馬」
「最初ぐらい普通にしろ」
「はぁい。じゃあ普通にします」

 普通ってのも難しいよな。だってオレした事ねぇし。

 そうぶつぶつ言いながら、眉を寄せた城之内くんの顔を直ぐ近くで眺めながら、僕はどこから突っ込んでやろうか、その場所やタイミングを計って凄くイライラしていた。ちなみにココは学校の教室で、授業の合間の休み時間。次の数学は先生の都合で自習になったらしいから、皆結構のんびりと室内のあちこちに散らばって話をしてる。

 僕等もその例に漏れず、珍しく午前中から登校してきた海馬くんの席周辺で、速攻飛んで行った城之内くんと共に窓際でダラダラしていた。そしたら、目の前の二人が真剣な顔をして「明日が大安で……」とか「友引は?」とか、どうにも話題としては変な事を話始めたから、僕はまたなんか始まった、と思って黙ってその声に耳を傾けていた。そしたら……二人が真面目に話し合いをしてたのは……どうやら『初夜』の事だったみたい。
 

 あの、さ。初夜に大安とか関係あるの?!っていうかSMとか!!教室でそういう話をしないでって言ってるのに!!ああもう、僕、君達が何時初エッチするか分かっちゃってすんごくイヤだよ!!
 

 そんな僕の心の中の絶叫なんてお構い無しに、見た目はそうじゃないけど雰囲気的にはらぶらぶ〜な二人は相変わらず頭を付き合わせてなんか楽しそうに話を続けてる。ああ、なんでだろう。城之内くんも海馬くんも特に顔が緩んでいたり、頬を赤くしてるわけじゃないのに、なんか…なんかこう見てらんないよ!

「なーやっぱり布団にしようぜ。オレどーもベッドって好きじゃねぇんだ」
「貴様が毎日畳む気があるんなら考えてやると言っている」
「うー面倒くさい」
「なら諦めろ」
「まあいっか。下にモノ隠せるし」
「この間貴様が持ち込んだ下らない雑誌やDVDは全部捨てたぞ」
「えぇ?!ちょ、それ借り物もあるんだけど?!どーりでエロ本足りないと思った!!なんでそういうことするんだよ!」
「ふん。あんな低俗なものを見て興奮するなど下らんからだ。何が夜の病院シリーズだ。手術台のどこがいいのだ?変態め」
「お前なんで中身知ってんだ!実はガン見したんだろ!」
「知らんな。とにかく、ああいうものは持ち込み禁止だ」
「くっそー。アレすげー良かったのに……オレはなぁ。来るべき時に備えてだな!ちゃーんと勉強をしてるんだぜ。それを邪魔するとか酷いだろ!」

 ……来るべき時に備えてって。君、手術台での医療プレイとか、そういうの生かすつもりなの?城之内くん。相変わらずマニアックなの好きだよね。それなのにやり方知らないとかめちゃくちゃピュアじゃない。意外すぎて言葉が出ないよ!

 なんか、ものすごーく余計なお世話だけど、この二人ちゃんとエッチできるのかな。っていうかさっき海馬くん危険日がどうとか言ってたけど。男に危険日ってあるの?何それ?海馬くん本当に男なの?……あーもう変な会話に毒されて何がなんだか分かんないよ。どうしよう。

「遊戯。貴様、何をじろじろみている」
「へっ!?あ、ううん。何でもないっ!!ご、ごめんね!……えっと、二人はさっきから何をそんなに真剣に話してるの?」
「うん?何時ヤる?って。どーせすんなら日のいい日がいいだろ?」
「……冠婚葬祭じゃないんだからそんなものに拘らなくても。シたい時にすればいいじゃない」
「でもさぁ、やっぱ最初が肝心っていうじゃん?なぁ?」
「その通りだ」
「海馬くんまで、スゴイ真剣な顔で言わないでよ。あのね、そういう事は第三者にベラベラしゃべっちゃ駄目だと思うよ」
「へー駄目なんだ?『新婚さんいらっしゃい』とかでは日時まではっきり言うじゃねぇか。超公衆の面前だろアレ」
「あれはテレビでしょ!って、見てるの?!」
「うん。暇な時」
「毎回三枝が椅子から転げ落ちる意味がわからんがな」
「それは演出!!もうっ、そんなの高校生男子が見る番組じゃないよ!何二人で仲良くみてるのさ!そんなの!!」
「暇だったからな」
「そんなに暇ならその暇な時間でヤればよかったでしょ!何ヶ月付き合ったのさ!」
「オレ、そういう無責任なことしたくないから。やっぱ結婚してからじゃないと」
「ああもう!話になんないっ!」

 何回も言うけど本当に駄目だよこの二人ッ!恋人と二人っきりの部屋で仲良くよりそってテレビ見てる状況で!なんで、なんでそういう事になんないの?!おかしいでしょ絶対!!そんなにきちっと段階踏もうって言ってる人達が、全部あけすけに他人にそういう事話すとか、感覚がズレ過ぎてるから!!もう聞いてらんないよ!

「そんなに興奮するなよ遊戯ー」
「こ、興奮って!そりゃ興奮してるけど、今城之内くんが考えてる意味で興奮してるんじゃないからね?!」
「遊戯は非童貞らしいという事を聞いたから貴様の前で話してるんだが」
「誰がそんな事言ったのさ!!ぼ、僕だって、その……」
「え?マジ?遊戯もう経験済みなの?なぁなぁどうだった?痛い?気持ち良い?どっちだよ」
「ちょ、僕の事はどうでもいいじゃない!!そんな事気にする前に日取りなんかどうでもいいからさっさとヤっちゃえばいいんだよ!!」

 二人の余りに余りなダブル攻撃に、僕はやっぱりキレてしまって、最後は席まで立って力の限り大絶叫してしまった。……ここが教室だって事も忘れて。

「……………あ」

 思いっきりシーンとなってしまった空間で、ぽつんと立ち尽くした僕に周囲の視線が突き刺さる。痛い。物凄く痛い。っていうか何この空気。最悪なんだけど。そんな現実に耐えかねて、僕が頭を抱えそうになった、その時だった。現状を招いてくれた諸悪の根源、城之内くんがちょっとだけ驚いた顔で僕を見た後、ニッと笑って海馬くんにこう言った。

「だってさ。遊戯もこう言ってるし。今夜しよっか?」
「ここでそんな事言わないで!!皆聞いてるから!!」
「……まぁ、オレはいつでも構わんが」
「答えないで海馬くんッ!」
「よーしッ!そうと決まればコンビニへ行ってくっかなー!遊戯、付き合えよ」
「何でコンビニ?!もう授業始まってるんだけど!」
「え?だっているだろ。コ…………」
「あああああ、わかったっ!わかったから言わないで!!皆さんお騒がせしましたー!!」

 放っておくとトンでもない台詞を連発しちゃう城之内くんをこれ以上ここにおいて置けなくて、僕は慌ててそう言うと彼の腕を思い切り掴んで教室から引きずりだした。思い切りよく扉を閉めた向こう側では、やっぱりシーンとしていて物凄く微妙な雰囲気だったけど、もうどうでもよくなった僕は、何故かとてもウキウキしている城之内くんを引っ張って、彼の言葉どおり……コンビニに逃げて行った。

 そこで、コ……についてその場で色々と相談されてまた酷い目にあったんだけど、その事はもう触れないでおくね。疲れたから。
 

 その日、二人が無事に初エッチが出来たのか、それともやっぱり大安の日を選んだのか、僕は知らない。

 知りたく、なかった。