Act5 殴られた

「どうしたのカイ、ほっぺた真っ赤だよ?まーた兄サマにやられたんだろ。お前さぁ、しつこいんだって」
「しつこくないぞ。今日は二回だけだ」
「……二回も『何』したんだよ」
「スキンシップだ」
「……ようするにエッチな事ね」
「違う」
「お前のスキンシップは総じてエッチなの」
「ただ触っただけだ」
「どうせお尻とか胸とかだろ。最初背後から回って殺気だった兄サマに避けられて?その後『前からならばいいのか』とかなんとか言っちゃって、前からタッチしようとして殴られたんだろ」
「……何故分かる」
「だってそれ何回目だよ。兄サマはそういうの嫌いだって言ってるじゃん」
「では瀬人はどういうのが好きなのだ」
「セクハラに好きも嫌いもないと思うけど……大体普通ボディタッチって女の子相手にしたくなるもんじゃないの?なんもない胸触って面白い?」
「面白いぞ。お前だって猫を撫でるだろうが。ああいう感覚だ。柔らかくて骨っぽいところがいい」
「……猫って。それ兄サマに言わない方がいいよ。痩せてるの気にしてるから」
「うむ。気を付ける」
「とにかく、兄サマにベタベタしたら駄目だからね。余計嫌われるよ。最終的にはグーで殴られるね」
「いや、最初からグーだった」
「めちゃくちゃ怒ってるじゃん。懲りろよ」
「心配するな。今度は上手く避ける」
「オレが心配してるのはそっちじゃないっての」
「じゃあ、謝るからとりなしてくれ」
「えー嫌だ。自分で行ってきなよ」
「無理だな。追い出された後部屋に入ろうとしたらカッターが飛んできた。ほらここ、ちょっと切れてるだろう」
「あ、ほんとだ。見ようによってはちょっとイケてる髪型かもよ。でもさぁ。カッター投げるとか兄サマ超殺る気じゃん。お前ホントに触っただけかよ」
「ああ。両手でぐっと。こんな風に」
「うわっ!オレにやるなよ!!ってそれ触ったじゃないから。掴んでるから!むしろ揉んでるじゃんか!」
「駄目なのか?」
「……や、それがいいとか悪いとかそういう問題じゃなくてさ」
「お前のはまだ小さいが瀬人のはオレの手にフィットするのだ」
「別にそんな事聞いてないし!だからセクハラは駄目なんだって!」
「じゃあ何ならいいんだ」
「何なら、じゃなくてさ。……こんな事オレの口から言いたくないけど、エッチな事したいんならちゃんと兄サマの同意を得てやらないと。その内お前本当に追い出されるよ?」
「もう出て行けと言われた。だからとりなしてくれと頼んでいる」
「もー……とりなしてやってもいいけどさぁ。お前絶対また同じ事するじゃん」
「仕方がないだろう。したいんだから」
「威張るなよ。とにかく、今日はもう駄目だからな。オレ一応兄サマのとこ行ってくるけど、お前は明日まで兄サマの部屋に入るの禁止な。分かった?」
「ああ、分かった」
「じゃ、ちょっと待ってて。大人しくしてろよ」
「うむ」
「────────」
「……遅いな、モクバ。もう15分は経つぞ」
「──── ただいまー。ごめんごめん。ちょっと手間取っちゃって」
「で、どうだった?」
「一応ご機嫌は直ったみたいだけど。まだ駄目かな。お前もういいから部屋に引っ込んで寝ちゃえよ」
「……つまらん」
「つまらん、じゃないの。自業自得だろ。じゃーおやすみ」
「……おやすみ」
「何処行くんだよ。お前の部屋は逆だろ」
「間違えた」
「嘘吐け。兄サマのとこに行っちゃ駄目だからな!」
「分かっている。ではな」
「……本当かなぁ。あいつ絶対兄サマのとこ行きそうな気がするけど……」
「────────」
「物音も聞こえないし。静かに寝たかな?……じゃーオレももう寝ようかなーなんか疲れたし。……って!!えぇ?!」
「モクバ!!」
「お前!なんで帰って来てるんだよ!!しかも何その顔!おたふく風邪みたいになってるじゃん!」
「思いっきり殴られたんだが。瀬人の機嫌は全然直っていなかったぞ!触っただけなのに!」
「…………お前、馬鹿だろ」
「痛い」
「もうオレ知らない。明日生ゴミの日だから覚悟しておいた方がいいかもね」