Act9 君と恋人になった日5(Side.遊戯)

「……えっと、あの……ど、どうしようか」
「どうしようかって……オ、オレは貴様に『貰われた』のだから、自分からは動かんぞ」
「あ、そう……そう、だよね。じゃあえっと、ベッドに上がってくれる?」
「脱いでか」
「ぬっ……!ううん、脱がなくていいから。そのまんまで」
「……わかった」

 ぼんやりと光る深いブルーのライトだけが暗闇を照らす静か過ぎる部屋の中で、僕は同じボディソープの香りがする海馬くんと向き合っていた。湯上りの、近づくと少しだけ湿った空気を纏う海馬くんの手を取って、ちょっとだけ震える声でそう言うと、海馬くんは頷いてゆっくりとベッドに腰かけた。

 柔らかい室内用スリッパを脱ぎ捨てて床に放る。パタ、という小さな音にも僕も海馬くんもびくっと反応して視線をついそこへと向けてしまう。

 ついに……ついにこの瞬間が来てしまった。あの海馬くんと、本当の意味での恋人になる瞬間。まだ床に立ったままの僕は物凄く気まずそうに俯いたまま僕の次の動きを待っている海馬くんを真正面に見据えながら、なんとなく感慨に浸ってしまう。

 ここまで来るまで凄く凄く長かったような気がする。けれど、時間的に言えばたかだか二ヶ月ちょっとで。それまで話をする事も認識さえもして貰えてるかどうか分からない相手だった彼と、こんな風に触れ合える事が出来るなんて、夢なんじゃないかと思えてきた。

『この僕』が『あの海馬くん』とエッチする。恋人になる。

 奇跡、だよね。こんなの。

「?……何を呆けている。するならさっさとしろ」
「なんか、夢みたいだなーって」
「……何が」
「だって、海馬くんが僕とこんな事になるなんて、少し前までは全然考えられなかったんだ。勿論そうなりたいな、好きだなぁとは思ってたけど。恋って一人だけじゃ出来ないでしょ?まさか海馬くんが僕の方を向いてくれるなんて思わなかったし……だから今ちょっと幸せを噛み締めてるの」
「……何を今更。人がいいも悪いも言わない内に強引に事を進めようとした奴とは思えんな」
「うん、それも今思うと凄いと思う。僕って勇気あるね」
「……自分で言うな」
「ごめん。でも誰も褒めてくれないから」
「………………」
「大好きだよ、海馬くん。これからもっともっと好きになるから。呆れないで付き合ってね」
「既に呆れてるわ」
「そっか。じゃあもう呆れられる心配もないんだね。安心した」
「………………」
「なるべく痛くならないように頑張るから、海馬くんも頑張ってね」

 そう言うと僕は、最後の言葉に何か言いかけた海馬くんの唇に今日何回目かのキスをした。柔らかくて少し冷たいそれは一瞬逃げる素振りをしたけれど、僕がそっと濡れた栗色の髪ごと目前の頭を抱き締めると、海馬くんの手が躊躇いがちに伸びてきて、僕のパジャマの背中部分を握り締めた。

 きゅ、と背骨の辺りで握られる拳の感覚に、その手が少し震えている事に、僕の口元に笑みが浮かぶ。

 あの海馬くんでも、こういう時は緊張するんだ。震えたりもするんだ。いつもあんなに大きな態度と凄い言葉で人を威圧したり煽ったりしている彼が、今は僕の腕の中で緊張して震えている。それだけで、僕はもう海馬くんが愛しくて堪らなくなる。僕が言うのもおこがましいけど、大事にしてあげたいなぁって思うんだ。

 海馬くんに言ったら「余計なお世話だ!」って怒られるんだろうけどね。

「……う…っ……ん、ふ…っ……んんっ……」

 そんな事を考えながら、僕は何度も海馬くんにキスをする。海馬くんは凄く戸惑いながらもそれを受け入れて、自然と出てしまう喘ぎ声を我慢しようと懸命になってるみたいだった。

 けれど僕はそんなことはお構いなしに少しずつ綻んで行く唇の間から舌を入れて、暖かな中を探る。驚いて奥に引っ込んでしまう舌に触れて、絡めとって、吸いあげる。僕の舌が邪魔で閉じる事が出来ない口の端から透明な唾液が零れ落ち、糸を引いて海馬くんが纏う白いバスローブに染みを付ける。白い顔が少し歪んで苦しそうな顔をしていたけれど、僕は解放してあげたりはしなかった。

 全然触れられなかった二ヶ月分をここで一気に取り戻すように、忘れかけていた感触を全部思い出せるように。幾度も幾度も君に触れる。君を探る。

 唇を合わせたまま頭を抱えていた手を項から頬へ、顎を伝って首筋へ、そして緩く合わせられただけのバスローブの境目に滑らせていく。想像通りの凄くきめ細やかですべすべの肌はいつまでも触っていたいような心地良さがあって、どうしたらいいか分からなくなる。

 時折悪戯に指先で掠めてしまうまだ柔らかな突起は、幾度も撫で摩る内につんと立って、確実な違和感を僕に与えた。同時に海馬くんの背中がびくりと跳ねる。

「──── あっ!」
「気持ちいい?女の子みたいに、ここに触られると感じるんだね」
「……お、女みたいにとか言うな!貴様、まだ18になってない内からっ……エ、エロゲーとかやってるんじゃないだろなっ……んっ……!」
「エロゲーとか言わないでよ。海馬くんがそういう事言うとすっごく恥ずかしいんだけど……」
「や、やかましい、変態がっ…!」
「もう、そんなのやってないってば。モクバくんでしょ、そういう事話したの。確かに男だから興味はあるけど、海馬くんがいるなら全然やりたいと思わないよ。だって、ゲームには何も出来ないけど、海馬くんには色々できるし。……ほら」
「……あっ!……そ、んな所に触るなッ……」
「僕はここを触られてもくすぐったいだけでなんともないけど……海馬くん、弱いんだね」

 もう、初めてのエッチの時にエロゲーの話なんかしないでよ。海馬くんってそういうとこちょっと抜けてるよね。モクバくんの話によると、海馬くんは一番そういうものに興味がある時代に勉強一筋だったから、人よりも大分そのテの事には疎いって言ってたけど。確かに、とっても疎い。この分野に関してだけは、僕は海馬くんよりも上なんだね。なんかちょっと優越感。

 いつの間にか大分肌蹴てしまったバスローブを握り締めながら、僕の悪戯にも似た手の動きに必死に耐える海馬くん。このエッチを始める前に、海馬くんは「オレが貴様を抱くのか。それとも貴様がオレを抱きたいのか」と堂々と聞いてきたけど、僕は君のこういう姿を見たかったから押し付け恋人になったわけで……まさか海馬くんが逆でも有りなんだと思ってたのにはビックリした。

 うーん海馬くんがどうしてもって言うんなら僕だってどっちでも構わないけど、海馬くんが僕の好きにしていいって言ってくれた以上、僕は絶対こっちがいいな。僕の手で、僕自身で、海馬くんをぎゅっと抱き締めて包んであげたい。気持ち良くしてあげたい。一つに……なりたいんだ。

「海馬くん」
「……っあ!……あっ、ゆう、ぎっ!」

 言いながら、ちゅっと目の前にある肌を吸いあげる。海馬くんから凄く甘い声が上がる。

 もう、そんな声を出して僕にしがみ付いている癖に、僕を抱こうとか思ってたの?無理無理。絶対無理だから。そっと脇腹を撫でただけで力が抜けちゃうような身体じゃ何をどうする事も出来ないよ。ご愁傷様。

 海馬くんの身体にキスをしてみるみる内に紅く痕が付くそれに感動して、何度も同じ事を繰り返す。目に痛い程真っ白な裸体のあちこちに刻まれていく印に、僕は凄く嬉しくなる。多分誰も触った事なんかない綺麗な身体。それを僕の色んなもので汚していく興奮。貴重な映像。リアルな触感。

 海馬くんはさっきから妙にエロゲーに拘るけど、あんなものが君の代わりになる筈なんかない。どんなに可愛く綺麗な女の子だって、カッコよくセクシーな男だって、君には適わない。絶対に。

 上半身を触り尽くしてそれだけで既にぐったりとしている海馬くんを抱き寄せて、何度も何度もキスをする。そしてすっかり潤んでしまって今にも涙が零れ落ちそうになっている目尻に舌を滑らせて、僕は真っ赤に染まった耳元を擽りながらそっと彼に囁いた。

「じゃあ、『する』から……足、開いてくれる?」

 ひたり、と湿った掌をつるりとした海馬くんの膝に乗せて、僕はもう一度同じ事を繰り返した。それに、少しだけ触れた体が震える。戸惑いがちの瞳が、僕を見る。不安そうに、縋る様に。

 そんな状態で膠着した数秒後、海馬くんはゆっくりと、本当にゆっくりと既に大分緩んでいた膝と膝の距離を離し始めた。
 

 僕を、受け入れる為に。   
「誕生日おめでとう遊戯!これ、オレからプレゼントだぜぃ!」
「わっ、何これずっと欲しかったゲームと……カード?!ありがとうモクバくん!すっごく嬉しいよ!ご馳走も凄く美味しかったし、ケーキも……そしてプレゼントまで貰っちゃって悪いなぁ」
「何言ってんだよ。誕生日ってのはそういうもんだろ。まあ、カードは兄サマが取り寄せてくれたんだけどね」
「ふん、余計な物を見繕うよりは貴様はそういう物の方がいいだろう」
「うん、ありがとう海馬くん!早速帰ったらデッキ構築するね!今度デュエルしようね!」
「今の貴様がオレに勝てるのか?」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないじゃん。僕だってもう一人の僕に勝ったんだから、実際強いんだからね!」
「そうか、楽しみにしているぞ」  

 ついに来てしまった日曜日……六月四日。僕は海馬くんに約束した通り、午後一番に海馬邸にやって来て、海馬くんとモクバくんに熱烈な歓迎をされてしまった(尤も、表立って歓迎してくれたのはモクバくんだけだけど)。

 僕はそんなつもりは余り無かったんだけど海馬邸はすっかり僕の誕生日おめでとうムードになっていて、最高に美味しいアフタヌーンティから始まって、すっごい豪華な夕食と美味しいデザート、果てはバースディケーキまで、というフルコースのお持て成しをされた。

 僕はその全てにただただ驚いて、もうずっとありがとう!とか美味しい!とか言いっぱなしで、モクバくんに「今日の遊戯はそれしか言ってないぜぃ」なんて言われちゃう位その言葉しか口にしなかった。だってしょうがないじゃん、本当に嬉しいし、美味しかったんだから。

 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて、時間も夜の9時も回った頃、僕は実は海馬邸に来る前から海馬くんにどう切り出そうか迷っていた『プレゼント』の事を言い出せないまま、時間も時間だからもう帰るね、って一緒に寛いでいた二人に告げた。そうしたら、モクバくんが驚いて「え?今日は泊まって行くんだろ?!」って言ったんだ。

「えっ?そ、そんな予定ないよ。家にだって夜に帰ってくるねって言っちゃったし、明日は学校だし……」
「なんでだよ。学校なんて兄サマと明日一緒に車で行って、途中で家に寄って貰えばいいだろ?何も問題ないじゃん。ね?兄サマ?」

 そう言って隣に座る海馬くんを見てそう言うモクバくんに、海馬くんは一瞬凄く戸惑ったような顔でモクバくんを見たけれど、そんなに間を空けずに「そうだな」と言ってくれた。そして畳みかけるように「何ならオレが貴様の母親に電話でもしてやろうか」なんて言って来る。

 …そ、そりゃ、海馬くんから電話なんかされたら母さんは1にも2にもなくOKしてくれるだろうけど……。泊まって、それでも何も出来なかったら僕どうしたらいいか分かんなくなるよ。だったら今日はもう諦めて大人しく家に帰って、仕切り直したい。……うう、どうしたらいいんだろう。

 そんな風に僕が真剣に悩んでいたら、モクバくんが勝手に僕の鞄から携帯を取り出して、「はい兄サマ」なんて言って、海馬くんに渡してしまう。それを特に何も言わずに受け取った海馬くんは、さっさと僕の携帯を操作して、本当に母さんに電話してる!……ちょ、こっちまで声が聞こえるんだけど?!母さんめっちゃ浮かれて海馬くんと話して……うわ、速攻GOサイン出してるよ!さ、さすが海馬くん。

「貴様の母親は構わないと言っていたぞ。どうする?」

 パチンと僕の携帯を片手で閉めて、海馬くんはそう言って僕にそれを差し出してくる。こうなってしまった以上、拒否する権利もつもりも全部無くなってしまった僕は、恭しく携帯を受け取りながら「じゃあ、お言葉に甘えて……」って答えてしまった。ここまできたらもう僕だって腹を括るしかない。

「そうと決まれば時間も時間だし、オレお風呂入ってくるぜぃ。あ、そう言えば兄サマ、さっき兄サマの携帯鳴ってたよ?部屋に置きっ放しじゃない?」
「そうか?……見てくる」

 僕の泊りが決定した途端、嬉しそうにそう言ってソファーから降りたモクバくんと、彼に言われて自分の部屋に携帯を取りに行く為に立ち上がった海馬くんはそれぞれ僕をちらりと見て、海馬くんはさっさと部屋の外に、そしてモクバくんは何故か僕の側に寄ってくる。え?と思ってその顔を目線で追うと、モクバくんは僕の膝にぽんと手を置いてにやり、と不敵な笑顔を見せた。

「な、遊戯。本番はこれからなんだからな?」
「えっ?」
「だってまだ兄サマに貰ってないだろ?『プレゼント』。オレ、もう部屋に引っ込むから」
「えぇ?!そ、そんなッ……だって海馬くんは……!」
「兄サマはそんなのとっくに覚悟してるよ。昨日もそういう話したしさ。きっと『プレゼント』、くれると思うぜぃ」
「……うう」
「お前ここでヤんなかったら絶対男じゃないって!頑張れよ!」

 最後にぎゅっと僕の手を握り締めて、モクバくんは鼻歌を歌いながら軽い足取りで部屋を出て行ってしまう。……大好きな兄サマが僕にヤられちゃうって事に抵抗ないのかなモクバくんは。まあ、頑張れって言ってくれる位だからむしろ応援してくれてるんだろうけど……。

 で、でも。海馬くんがまだ何にもそんな事を口にしていないのに、僕の方から「プレゼントは?」なんて言えないよ。どうやって切り出せばいいのかな……プレゼント関係なしに「一緒に寝よう」って言ってみればいいのかな……ああもう、直前になって迷ってどうするんだよ!

 と、僕がソファーに座って思わず頭を抱えそうになったその時だった。いつの間にか明るく僕を照らしていたライトの光が遮られて、見つめていた膝に影が落ちる。え?と思って思わず顔をあげると、そこには海馬くんが立っていた。そして、複雑な顔をして僕を見る。

「か、海馬くん!あれ、部屋に行ってたんじゃ……」
「その部屋から戻ってきたのだが……何をやっている」
「別に、何も。……ええと、これから何しよっか?今日は日曜日だからあんまり面白いテレビもやってないし、海馬くんはあんまりゲームやらないだろうし……」

 ちょっと!この期に及んでなんで僕はテレビだのゲームだの言ってるのさ!馬鹿!

 そう内心自分を自分で詰っても、なかなかソレ系の話題を口にする勇気が出て来ない。ああもう駄目だ。ほんっと僕って意気地なしだ。そう思いながら僕は再び頭を抱えようとしたその刹那、海馬くんが少しだけ腰を曲げて僕の肩に手をかけた。

 何気ない風に。けれど、顔は凄く強張って。

「……海馬くん?」
「プレゼント」
「え?」
「プレゼントが、まだだったな……と、思って……何が欲しいか、決めて来たか?」
「!!えっ、あっ……そ、そうだっけ?うん、そうだねっ!」
「何が欲しい?何でも……貴様が欲しいというものをくれてやる」

 その声は本当にいつも通りのちょっぴり居丈高なものだったけれど、僕が目線を上げてしっかりと海馬くんの目を見ると、その瞳は微かに揺れていて、なんか凄く……こんな事を言うのも変だけど、可愛かった。

 ああ、やっぱり駄目だ。
 我慢なんて、待っている事なんて、もう出来ない。

 そうやっと素直に思う事が出来た僕は、少しの間瞬きをしながら海馬くんのその顔を堪能して、やがてゆっくりと、正直な僕の気持ちを打ち明けた。
 

「じゃあ僕は……プレゼントに海馬くんが欲しい。君の全部を、僕にちょうだい?」   
「──っ!……くっ、…ん。……あっ、ぁ、んんっ!」
「大丈夫だから、力抜いて?僕のそんなに大きくない、から」
「そっ…そういう問題ではっ……ないっ!……いた……っ!」
「んっ、指が三本入ったんだから、絶対、入るよ……ほら、もう少、しっ」
「そ、そこまで言うなら、貴様が変われっ…んあっ!……あっ!」
「嫌だよ。僕が海馬くんに入れたいんだから。……あ、入った!入ったよ海馬くん!」
「わ、分かってる!いちいち報告するなッ!…いっ!動くなッ!」
「ご、ごめん!でもお腹に力を入れちゃ駄目だよ。痛いよ?はい、深呼吸して?」
「……ひっ……あ、……はぁっ……はっ……」

 海馬くんに足を開いて貰ってから、長い長い時間をかけて僕は海馬くんの中に入る為に、丹念に海馬くんの入り口を解き解した。

 最初は絶対に嫌だとか駄目だとか泣きながら抵抗していたけれど、その度に僕が我慢強く説得して、余計な事を考えられないように指も舌も動かして、徐々に海馬くんの体力と気力を奪いながら、僕は漸く海馬くんと繋がる事に成功した。

 長い手触りのいい足を抱え込んで、濡れて柔らかくなった入り口にその反対に硬くガチガチになった僕を押し当てて、ゆっくりと入り込んでいく。幾ら舌で舐めて指でしっかり慣らしても、僕自身が入る為には相当の努力が必要で、今日始めてそこまで押し広げられた海馬くんのそこは、なかなか僕を受け入れてはくれなかった。

 頬を真っ赤に高潮させてボロボロと涙を零しながら、僕を必死に掴む海馬くんの指先には力が入り過ぎて凄く痛い。でもその痛み以上のものを海馬くんは感じているだろうから、そんなものは痛みのうちには入らなかった。

 それでも、海馬くんは「嫌だ」も「やめろ」も言わなかった。必死に僕の頼りない身体にしがみ付いてただ耐えている。

 そんな海馬くんが心の底から愛しいと、そう思った。

「落ち着いた?動いていい?」
「……やっ、……ま、まだ駄目だッ!」
「僕はもう限界なんだけどなぁ……大丈夫だよ、大分痛くなくなってきたよ?」
「きっ、貴様とオレを同等に考えるなッ!」
「うーん、このままキスしたいのに僕の背じゃ届かないや……早く大きくなりたいなぁ」
「……な、何を暢気な事を……っ……こんなっ、時にっ……んっ…!」
「とりあえず手で我慢しよう。海馬くん、右手離して僕にちょうだい?そう。こうして絡めて……」
「んあっ!……あっ!……あぁっ!」

 差し出された海馬くんの細く綺麗な手をぎゅっと握って、指と指を絡めあって。僕は海馬くんの制止を振り切って、ゆっくりと動き出す。途端に上がる嬌声に幸せを感じながら、僕はただただ夢中になった。

 好きで好きで、本当に大好きで……大切な、僕の恋人。

「大好きだよ。本当に……大好き、海馬くん」

 もう幾度言ったか知れないその言葉を僕は飽きずに何度も繰り返して、僕達は殆ど同時に絶頂にのぼりつめた。
 

 海馬くんと、本当の恋人になった、瞬間だった。   
「ねぇ、海馬くん……もうそろそろ日付、変わっちゃうけど」
「……何が」
「うん?まだ、海馬くんから言って貰ってなかったなぁって」
「……何を……ああ、お約束のアレか」
「そう。このプレゼントも、凄く凄く嬉しかったけど……やっぱり僕は海馬くんの言葉が欲しいかなぁって」
「……そうなのか?……安い奴だな」
「そうだよ。海馬くんと違って、僕は凄く安くて、簡単なんだから」
「……自分で言うな」
「でも、その分しつこいよ。覚悟しててね?」
「……もう十分分かったわ。今更だ」
「そっか。そうだね」
「誕生日おめでとう、遊戯」
「ありがとう。最高の誕生日プレゼントだったよ。これからも宜しくね?」
「………………」
「あっ、そこで寝ないでよ海馬くん!寝ないでってばー!!」

 事が全部終わってしまったベッドの中で甘い余韻に浸りながらそんな事を口にしていた僕は、いつの間にかすやすやと寝息を立て始めてしまった海馬くんを見下ろして、ちょっとだけがっくりしてゆさゆさとその身体を揺すってみる。

 けれど海馬くんはぴくりとも動かないで、凄く安心しきった顔で眠っている。素肌のままで。僕に身体をぴったりと寄せて。

 仕方ないよね。慣れない事をして凄く疲れたもんね。ごめんね。

 暖かくて、最高に気持ちがいいその身体を更にしっかりと抱き寄せながら、僕ももう眠ろう、と目を閉じる。吸い込む空気に混じる海馬くんの匂い、掌に身体全部に伝わる体温。頬に掛かる暖かな息。この全てが、たった今、全部僕のものになったんだ。誰もが羨むだろう宝物を、この手中にしっかりと包み込んだ。もう絶対に離さない。
 

 6月4日。僕の18歳の誕生日。

 海馬くんと本当の恋人になった日。
 

 僕はこの日の事を一生忘れない。海馬くんにも忘れないでいて欲しい。そして、来年もまた同じプレゼントを貰えたらいいな、なんて勝手な事を思ってしまう。
 

 でもその頃には……こんな事は僕らの間では全然特別じゃないものになっているんだろうけど。

 それでもやっぱり、何回でも同じプレゼントが欲しいんだ。
 

 今のこの瞬間が記憶の片隅から消えそうなくらい年を取っても……ずっと、ね。