Act8 てあらにあつかってはいけません

「貴様は……もう少し丁寧に扱わんかっ!」
「そ、そんなに乱暴な事をしたつもりないんだけど……ご、ごめん。……でもさ、海馬くんちょっと肌弱過ぎじゃないのかな」
「何?オレの所為だと言うのか?己の所業を棚に上げてよくもそんな口がきけるものだな!」
「そうじゃないけどさ……だって、この僕の力だよ?握力なんてクラスで最下位だったのにさ、こんな痕が付いちゃうのってやっぱり海馬くんの方の問題だと思うんだけど」
「…………う」
「大体君って見かけによらずか弱いよね。40度にもならないお湯で肌真っ赤になる人見た事ないよ。温泉、行けないんじゃないの?」
「う、煩いわ!今はそんな話などどうでもいい!」
「どうでも良くないよ。大事な事でしょ」

 そう言って、僕はいつの間にか気まずい顔をして両手を背後に隠そうとした海馬くんの腕を捕まえて、余り力を入れない様にしながら目の前へと持って来た。そしてつい今しがた海馬くんが眉を顰めて文句を言っていたその場所……細い手首の丁度長袖で隠れるか隠れないかの位置にくっきりと付いてしまった赤い痣にそっとキスをする。

 コトの後だからなのかただ唇が触れるだけのそのキスにも海馬くんは大げさな位に反応して、「やめろ!」なんて言いなら僕に掴まれた手を取り返そうとする。その動きを邪魔しないように、あっさりと手を離した僕は凄い勢いで戻って行くそれを目で追いながら「海馬くんの方がよっぽど乱暴な動きをしてると思うけど」と呟いた。

「そうだよ。良く考えたら、僕の首根っこを掴んでグラグラ揺すったり、ほっぺた抓ったりするのは海馬くんの方じゃん。そっちの方が乱暴でしょ」
「そういう事を言ってるんじゃないわ」
「じゃー君は僕に、君に一切触らないでエッチしろって言うの?無理だよそんなの」
「……なっ。露骨な言い方をするな!そうではない!」
「でも、実際はそういう事だよ。僕が触っちゃうと痕が付くんだからさ」
「………………」
「ほら、この辺とか」

 そう言って、僕は真面目さ半分、下心半分で向かい合って座っている彼の肌へと手を伸ばす。たった今身体を離したばかりでまだ少し息が上がっている真っ白な身体のあちこちには、僕が意図的に付けた赤い欝血と、全く意識しないで付けてしまった大小様々な痕が付いていた。

 主に僕が触ったり掴んだり押さえたりした所なんだけど、さっき海馬くんにもちゃんと言った通り、特に力をいれたつもりも乱暴にしたつもりもなかった。だからこれは全くの不可抗力だと思う。

 ……それにしても。なんか、すっごくエッチだぜ。海馬くん。

 首から胸、そしてお腹の辺りには僕が熱心に吸いついた所為で出来たキスマークが、そして手首と足の付け根には彼を押さえ付けた時にちょっとだけ力を込めた痕が綺麗に残ってる。それだけでも十分に衝撃的なのに、きゅっと締まった腰の辺りひときわ目立つ赤い痣。多分一番長い時間触っていた(正確には掴んでいた、だけど)所為で負担がかかってしまったのか、それは指の形がはっきりと分かる位鮮明に見えてしまっている

 僕には全くその気がないけれど、『えすえむ』とか『りょうじょくけい』とか好きな人がこれを見たら堪らないんだろうなぁなんて思ってしまう。

 うーんでも、本気でそんなプレイなんかしちゃったら、もっとこう、エグい事になりそうだけどね。考えるだけで可哀想になって来た……!

「……な、何をじろじろ見ている。触るな」
「うーん、確かにちょっと痛々しいよね。触ると痛い?ごめんね?」
「い、痛くはないわ、こんなもの」
「もっと優しくしてあげたいんだけど、海馬くんってばほんとに、触っても赤くなるんだもん」
 

 ほら、こんな風に。
 

 そう言って僕が何気なく触っていた、まだ何も痕が付いていなかった場所を軽く擦ると、そこはみるみる内に赤くなってしまう。……なんだか赤ちゃんの肌みたいだ。そこが凄く可愛いところでもあるんだけど。
 

「……ゆ、ゆう……ぎっ!」
 

 僕のそんな悪戯めいた動きに、ちょっとだけ腰が引けていた海馬くんが声をあげる。……あ、そんなつもりは無かったんだけど、元気になっちゃった。どうしよう。

 今日はまだ早いし、明日は日曜日だし……いいかな?

「ちょ……貴様何をしている!」
「ごめん。今度は君の身体に傷をつけない様にするから、もう一回」
「……はぁ?!」
「優しくするから、ね?」
 

 そういう問題かっ!!
 

 そんな絶叫にも近い声を上げた海馬くんの口をキスで塞いで。僕は自分の欲求の赴くままに彼を本当に優しく抱き締めた。
 

 尤も、最後までそれを貫き通す事は出来なかったけれど。